2013年10月25日金曜日

低栄養は嚥下障害の原因となるか

低栄養は嚥下障害の原因となるか、という1992年の論文を紹介します。恥ずかしながら、サルコペニアの嚥下障害を考える上で重要な論文であったにも関わらず、見落としていました。

Veldee MS, Peth LD. Can protein-calorie malnutrition cause dysphagia? Dysphagia. 1992;7(2):86-101.

栄養不足が筋肉や神経の機能変化を起こすことは、1992年以前よりわかっていました。嚥下の神経・筋肉に関する研究は1992年時点でありませんが、低栄養で嚥下障害は増加・悪化し、誤嚥のリスクと関連すると推測されます。

低栄養と嚥下障害の関連をみる研究が必要です。重度の低栄養患者では、経口摂取を開始する前に栄養改善を行うことを提案します。栄養改善によって筋肉の機能が改善することで、嚥下機能の改善を期待できるためです。

蛋白カロリー低栄養が嚥下機能に負の影響を与える可能性があり、一部のケースでは臨床的に重要です。健常者の低栄養による嚥下への悪影響は少ないですが、嚥下障害患者では低栄養でより嚥下機能が悪化する可能性があります。

しかし、低栄養による嚥下障害は、他の嚥下障害の原因疾患でマスクされるため、その存在を同定することは困難です。

蛋白カロリー低栄養の呼吸機能への悪影響に関しては、素晴らしいレビュー論文があります。低栄養によって呼吸筋力が低下する結果、肺活量が減少し、残気量が増加し、最大呼吸量が減少します(呼吸筋のサルコペニアですね)。

9. Pingleton SK, Harmon GS: Nutritional management in acute respiratory failure. JAMA 257:3094-3099, 1987
10. Lewis MI, Lebman M J: Nutrition and the respiratory muscles.
Clin Chest Med 9:337-347, 1988
11. Arora NS, Rochester DF: Respiratory muscle strength and maximal voluntary ventilation in undernourished patients.
Am Rev Respir Dis 126:5-8, 1982

サルコペニアに関する記載はもちろんありませんが、飢餓による低栄養だけでなく、悪液質やストレス(侵襲)に関する記載はあります。経口摂取より栄養改善を優先すべき場合があるというのは、リハ栄養的にもうなづけます。

サルコペニアの嚥下障害の参考になるだけでなく、呼吸筋のサルコペニア、サルコペニアの呼吸障害に関する記載と参考文献がこれだけあることにも驚きました。文献検索、先行文献の重要性を改めて認識しました。

Abstract

Nutrient deprivation has previously been shown to cause alterations in muscle and nerve function. Although an effect has never been studied in the neuromusculature of deglutition, the authors argue that an effect is likely. The proposed result is an increase in swallowing impairment in dysphagic individuals and associated risk of aspiration. Research studying the relationship between malnutrition and dysphagia is needed to verify clinical significance. Until controlled studies are completed, the authors suggest alternative alimentation in repleting severely malnourished dysphagic patients prior to attempting oral diet. A review of nutritional status indices is included to aid in identifying dysphagic patients at nutritional risk. Early identification of nutritional compromise and intervention can prevent malnutrition and its deleterious effects.

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