2012年9月30日日曜日

COPDの筋異常と悪液質


COPDの筋異常の原因である悪液質のメカニズムに関するレビュー論文を紹介します。

Remels AH, Gosker HR, Langen RC, Schols AM. The mechanisms of cachexia underlying muscle dysfunction in COPD. J Appl Physiol. 2012 Sep 27. [Epub ahead of print]

肺悪液質(Pulmonary cachexia)はCOPDでの死亡率増加と、末梢筋および呼吸筋の機能障害と関連しています。悪液質のメカニズムの詳細は不明ですが、細胞内での筋肉量維持のメカニズム(蛋白や筋核のターンオーバー)の病的変化が関与しているというエビデンスが増えています。

病的変化の要因として、酸化ストレス、ミオスタチン、炎症が考えられています。筋肉減少に加え、末梢筋では筋線維がⅡ型(速筋)にシフトして酸化能に障害が出やすくなります。一方、呼吸筋の筋線維は筋萎縮を認めるとともにⅠ型(遅筋)にシフトして酸化能が増強されます。

下肢筋肉の筋線維の変化は、悪液質や体重減少の影響を受けやすい肺気腫でより顕著であり、筋肉量減少と下肢筋肉の筋線維変化にはつながりがありそうです。

仮説ですが、下肢筋肉の筋線維変化が悪液質を加速させる可能性があります。十分な食事摂取が確保されていない場合、よりエネルギー不足や体重減少になりやすいためです。下肢筋肉の筋線維が変化することで、より炎症や酸化ストレスの影響を受けやすくなっている可能性があります。

悪液質のメカニズムが複雑であるために、その治療も栄養療法単独、運動療法単独、薬物療法単独では十分な効果が期待しにくいのだと思います。食事・運動・薬物のどれが欠けても悪液質が進行しやすいので、やはりCOPDには包括的な治療・対応が求められます。

Abstract

Pulmonary cachexia is a prevalent, debilitating and well-recognized feature of COPD associated with increased mortality and loss of peripheral and respiratory muscle function. The exact cause and underlying mechanisms of cachexia in COPD are still poorly understood. Increasing evidence however shows that pathological changes in intra-cellular mechanisms of muscle mass maintenance (i.e. protein turn-over and myonuclear turn-over) are likely involved. Potential factors triggering alterations in these mechanisms in COPD include oxidative stress, myostatin and inflammation. In addition to muscle wasting, peripheral muscle in COPD is characterized by a fiber-type shift towards a more type II, glycolytic phenotype and an impaired oxidative capacity (collectively referred to as an impaired oxidative phenotype). Atrophied diaphragm muscle in COPD, however, displays an enhanced oxidative phenotype. Interestingly, intrinsic abnormalities in (lower limb) peripheral muscle seem more pronounced in either cachectic patients or weight-loss susceptible emphysema patients, suggesting that muscle wasting and intrinsic changes in peripheral muscle's oxidative phenotype are somehow intertwined. In this manuscript, we will review alterations in mechanisms of muscle mass maintenance in COPD and discuss the involvement of oxidative stress, inflammation and myostatin as potential triggers of cachexia. Moreover, we postulate that an impaired muscle oxidative phenotype in COPD can accelerate the process of cachexia, as it renders muscle in COPD less energy-efficient thereby contributing to an energy-deficit and weight loss when not dietary compensated. Furthermore, loss of peripheral muscle oxidative phenotype may increase the muscle's susceptibility to inflammation- and oxidative stress-induced muscle damage and wasting.

2012年9月28日金曜日

第2回認知症の人の食支援研究会



‎12月16日に第2回認知症の人の食支援研究会が横浜(鶴見)で開催されます。私は栄養の話と事例検討をさせていただくことになりました。参加希望の方はFAXで申し込んでください。下記リンクから案内ビラと申し込み用紙を入手できます。よろしくお願い申し上げます。

https://www.sugarsync.com/pf/D6162998_9620294_37867

 

2012年9月27日木曜日

八重山地区摂食嚥下リハ栄養セミナー


11月2日(金)に八重山地区摂食嚥下リハ栄養セミナー(石垣島)で、摂食・嚥下障害のリハ栄養の講演をさせていただきます。翌日は石垣島まつりもありますので、お近くでない方もよかったらご参加ください。よろしくお願い申し上げます。

経腸栄養 100の疑問

大井田尚継監修、三松謙司編著:経腸栄養 100の疑問、医歯薬出版を紹介します。

http://www.ishiyaku.co.jp/search/details.aspx?bookcode=731450

神奈川NST研究会や横浜南部地域一体型NSTで大変お世話になっている、社会保険横浜中央病院NSTの三松先生が中心となって執筆された書籍です。

下記の目次を見ていただければわかりますが、臨床場面で気になる疑問を中心にわかりやすく解説されています。体系的な書籍での学習も重要ですが、理解しやすさの点でこの書籍のほうがずっと優れています。先にこの書籍で学習してから、体系的な書籍で学習するのがよいかもしれません。

私が知らない疑問もいくつもあり、よい学習になりました。例えば経腸栄養の歴史について教えてください、nasogastric tube syndromeとは何ですか?、耐性乳酸菌製剤を使用したほうがよい抗菌薬は何ですか?などです。

脱胃瘻(胃瘻からの解放)のタイミングは?という疑問も興味深かったですが、読んでみると私の文献を参考にしてくださっていました。サルコペニアについても記載してくださり、どうもありがとうございます。

経腸栄養の最先端の知識も含めて、かなりの部分を網羅している書籍ですので、経腸栄養の初心者から中級者の多職種にお勧めできます。多くの方に読んでいただきたいと思います。よろしくお願い申し上げます。

主な目次
1 経腸栄養はなぜ有用なのですか?
2 経腸栄養はどこから投与しますか?
3 経腸栄養の適応は?
4 経腸栄養の禁忌は?
5 経腸栄養の歴史について教えてください.いつから経腸栄養は始まったのですか?
6 経鼻胃管による経腸栄養の適応は?
7 経鼻胃管チューブ挿入時の注意点は?
8 経鼻経管栄養で使用するチューブの選択は?
9 経鼻胃管チューブの固定法はどうすればよいですか?
10 経鼻胃管栄養時の合併症で注意することは何ですか?
11 nasogastric tube syndromeとは何ですか?
12 経腸栄養チューブ閉塞の対処法はどうすればよいですか?
13 外科的胃瘻の適応と造設方法は?
14 PEGによる経腸栄養の適応と禁忌は?
15 PEGの種類にはどのようなものがありますか?
16 PEGの造設にはどのような方法がありますか?
17 PEGカテーテルの交換は,いつ・どのようにして行いますか?
18 胃切除後の患者にPEG造設は可能ですか?
19 脱胃瘻(胃瘻からの解放)のタイミングは?
20 PEG造設時の看護ケアについて教えてもらえませんか?
21 PEG周囲のスキンケアはどのようにしますか?
22 PEG瘻孔部感染に対する予防とケアはどうすればよいですか?
23 PEG周囲の不良肉芽に対するケアはどうすればよいですか?
24 外科的空腸瘻の適応と造設方法は?
25 空腸瘻の入れ替えはできますか?
26 PEG-Jとはどのような栄養投与方法ですか?
27 PTEGとはどのような栄養投与方法ですか?
28 投与エネルギーと三大栄養素の投与量はどのようにして決定するのですか?
29 経腸栄養の投与時に必要な物品には何がありますか?
30 経腸栄養の投与前に確認することは何ですか?
31 経腸栄養の投与手順はどうしますか?
32 経腸栄養剤の投与量と投与速度はどのように決定すればよいですか?
33 経腸栄養投与時にポンプは必要ですか?
34 経腸栄養施行時の追加水は,いつ・どのように投与したらよいですか?
35 経腸栄養剤を水で希釈してもよいですか?
36 経腸栄養施行時に口腔ケアは必要ですか?
37 経腸栄養剤の種類にはどのようなものがありますか?
38 成分栄養剤はどのようなときに使いますか?
39 消化態栄養剤はどのようなときに使いますか?
40 半消化態栄養剤はどのようなときに使いますか?
41 immunonutritionとは何ですか?
42 免疫増強・調節経腸栄養剤にはどのようなものがありますか?
43 GFO(R)とは何ですか? どのようなときに使いますか?
44 プロバイオティクス・プレバイオティクスとは何ですか?
45 シンバイオティクスとは何ですか?
46 食物繊維はなぜ必要なのですか? すべての栄養剤に含まれていますか?
47 経腸栄養剤にはどうして薬品扱いと食品扱いがあるのですか?
48 半固形化栄養材とは何ですか?
49 市販されている半固形化栄養剤にはどのような種類がありますか?
50 半固形化栄養材短時間注入法とそのメリットは何ですか?
51 半固形化栄養材の投与方法と手順はどのようなものですか?
52 半固形化栄養材投与時の水分補給はどのようにすればよいですか?
53 半固形化栄養材の投与ルートに制限はありますか?130
54 経腸栄養投与時によく起こる合併症は何ですか?
55 経腸栄養を開始するときに注意しなければならない合併症は何ですか?
56 経腸栄養施行中に下痢が起こる原因は何ですか?
57 経腸栄養剤に関連のある下痢の対処方法は?
58 経腸栄養剤に関連のない下痢の対処方法は?
59 経腸栄養施行中に便秘が起こる原因は何ですか?
60 便秘時の対処方法は?145
61 経腸栄養で腹部膨満になるのはなぜですか?
62 腹部膨満時の対処方法は?
63 経鼻経管栄養で誤嚥しやすいのはなぜですか?
64 経口摂取困難患者の栄養投与方法は経鼻胃管とPEG,どちらを選択するのがよいですか?
65 嚥下障害患者への補助経管栄養投与にはどのような方法がありますか?
66 経鼻経管チューブ留置中の経口摂取は禁忌ですか?157
67 気管切開患者の嚥下訓練や経口摂取で注意することは何ですか?
68 経腸栄養投与中の低Na血症はどうして起こるのですか?
69 経腸栄養投与中にビタミン欠乏になりますか?
70 経腸栄養投与中に微量元素欠乏になりますか?
71 経鼻経管栄養中の薬剤投与はどのように行うのですか?
72 簡易懸濁法とはどのような方法ですか?
73 抗菌薬投与時に耐性乳酸菌製剤を使うのはなぜですか?
74 耐性乳酸菌製剤を使用したほうがよい抗菌薬は何ですか?
75 経口抗癌剤を簡易懸濁法により経管チューブから投与してもよいですか?
76 腎疾患(透析・非透析)のときに使用できる経腸栄養剤は何ですか?
77 糖尿病に対して血糖を考慮した経腸栄養剤は何ですか?
78 肝疾患のときに使用できる栄養剤は何ですか?
79 呼吸不全のときに使用できる栄養剤は何ですか?
80 脳血管障害患者に対する経腸栄養で注意することは何ですか?
81 胃食道逆流現象における経腸栄養で注意することは何ですか?
82 クローン病に経腸栄養は有用ですか?
83 潰瘍性大腸炎に経腸栄養は有用ですか?
84 狭窄を有する大腸癌に経腸栄養は有用ですか?
85 急性膵炎では経腸栄養を行ってもよいのですか?
86 術前患者の栄養管理にはどのような栄養剤を使用したらよいですか?
87 ERAS(イーラス)における経腸栄養の役割は何ですか?
88 経口補水療法(oral rehydration therapy:ORT)とは何ですか?
89 早期経腸栄養は有用ですか?
90 食道切除術の栄養管理に経腸栄養は有用ですか?
91 胃全摘術後に経腸栄養は必要ですか?
92 膵頭部十二指腸切除術後の栄養管理に経腸栄養は有用ですか?
93 縫合不全発生時にも経腸栄養は施行可能ですか?
94 短腸症候群で経腸栄養は施行可能ですか?
95 褥瘡に有用な栄養剤はありますか?
96 oral nutritional supplements(ONS)とは何ですか?
97 癌化学療法時の口内炎に対して有用な経腸栄養剤はありますか?
98 癌悪液質に有用な経腸栄養剤はありますか?
99 癌終末期の患者に対して経腸栄養は有用ですか?
100 在宅経腸栄養に移行する際の注意点は何ですか?

2012年9月26日水曜日

第20回ハートセンターフォーラム


10月22日(月)に聖マリアンナ医科大学病院で、慢性心不全のリハ栄養という講演をさせていただきます。

私の講演はリハ栄養とサルコペニアに関する総論的な話がほとんどですが、今回は慢性心不全に限定した話を少し(5-10分程度でしょうか)させていただく予定です。お近くの方はよかったらご参加ください。よろしくお願い申し上げます。

2012年9月24日月曜日

飢餓時の筋トレと運動

飢餓時のレジスタンストレ―ニングや持久力増強訓練は禁忌とリハ栄養で言っています。それではどの程度の運動や活動であれば可能であり、行うべきでしょうか。

日常生活での筋収縮力が常に最大筋力の20%以下であれば、筋力は徐々に低下します。一方、最大筋力の20-30%の筋収縮で筋力は維持可能で、最大筋力の30~40%以上の筋収縮で筋力は増加可能と言われています。

日常生活レベルで発揮する筋力は20-30%程度ですので、日常生活を行っていれば廃用性筋萎縮を起こすことも筋力が増えることもあまりないと思われます。

飢餓時は筋肉を分解してエネルギーを作りだしますので、筋肉量は減少します。Muscle Power(筋肉の質)が改善すれば、筋肉量が減少しても筋力が改善する可能性はあります。しかし、飢餓で筋肉量が減少している時の筋力の目標は、改善ではなく維持もしくは悪化軽減でしょう。

飢餓時に日常生活での筋収縮力が常に最大筋力の20%以下になると、飢餓による筋萎縮に廃用性筋萎縮が加わります。そのため、飢餓時でも最大筋力の20-30%程度の筋収縮を発揮する機会は重要です。つまり、日常生活を行うことは、廃用性筋萎縮の予防に有用です。

一方、運動によるエネルギー消費量の増加は通常、飢餓の悪化につながります。ただし、悪液質で運動による抗炎症作用から食欲改善を期待する場合は、飢餓の改善につながることもあります(漫然と行うべきではありませんが)。そのため、飢餓時はできるだけ運動を控えたほうがよいということになります。

飢餓時のレジスタンストレーニングは、筋肉量増加を期待できないだけでなく、運動によるエネルギー消費量増加から飢餓の悪化にもつながりますので、原則として禁忌です。

飢餓時の持久力増強訓練も、持久力増加を期待できないだけでなく、運動によるエネルギー消費量増加から飢餓の悪化にもつながりますので、原則として禁忌です。

飢餓時に廃用性筋萎縮を予防するためには、1日中安静臥床で過ごすのではなく、日常生活を行うことが重要です。日常生活を行うことで安静臥床に比べるとエネルギー消費量は増加しますが、日常生活のメッツは2メッツ程度です。飢餓の若干の悪化と廃用性筋萎縮を比べると、廃用性筋萎縮のほうがより問題と考えます。

そのため、飢餓時に日常生活を制限する必要はないと考えます。むしろ1日中安静臥床で過ごすのではなく、しっかり離床したうえで、日常生活やADL訓練を行うことを推奨します。ただし、階段昇降はお勧めしません。エレベーターやエスカレーターを使いましょう(笑)。

飢餓時に機能訓練を行う場合、離床する、廃用症候群予防のためにADL訓練を行う、2メッツ以下の活動を行うことはよいと考えます。機能訓練中の栄養剤補給は特に重要でしょう。一方、レジスタンストレーニングや持久力増強訓練は禁忌です。平地歩行は可ですが、家屋内短距離程度とするのがよいと考えます。

2012年9月21日金曜日

脳からストレスを消す食事

武田英二著、脳からストレスを消す食事、ちくま新書を紹介します。

http://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480066213/

脳によい食事「ブレインフード」という概念は、今回初めて聞きました。脳の可塑性から考えるブレインフードとして、239ページに以下のようにあります。以下、引用です。

脳によい食事は、主食であるご飯に主菜、副菜がついた一汁三菜のバランスがとれた食事です。主菜にはDHA、EPAが含まれた魚介類を持ってきて、副菜は野菜の煮物、漬け物で食物繊維やミネラルを補充する、そして具だくさんの味噌汁をつける――これが脳によい食事です。

一見、当たり前のように思えるかもしれませんが、当たり前の食事や栄養管理が現代ではなかなか実践が難しくなっています。リハ栄養的に考えると、認知リハを頑張っても、食事や栄養管理に大きな問題があれば、認知機能を最大限改善させることは難しいといえます。

飢餓や不適切な栄養管理のときにレジスタンストレーニングや長時間の持久力増強訓練は禁忌と言っています。飢餓や不適切な栄養管理のときに認知リハは禁忌とまでは言えませんが、栄養はリハのバイタルサインですから、栄養を無視した認知リハには改善の余地があるかと思います。

この書籍では生理学を栄養学を上手に絡めて執筆されています。生理学だけですとどうしても難解になりがちで関心を持ちにくいのですが、最近の栄養学の知見を含めて紹介されていますので、わかりやすく興味を持ちながら読み進めることができます。

例えば、コルチコトロピン放出ホルモン(CRH)や副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)は食欲を抑えるホルモンです。コルチゾールは食欲を増進させます。薬剤でコルチゾールを投与するとACTHの分泌が抑制される結果、食欲を抑制するホルモンがほとんど分泌されないために肥満になりやすくなります。

脳卒中の栄養管理というと、まずは低栄養や過栄養の評価と治療(リハ栄養含め)が求められます。その次のステップとして、本書に出てくるようなブレインフードと認知リハ(と薬剤など)の併用による認知機能の改善に踏み込んでいくことが今後の課題かもしれません。多くの方にお勧めしたい書籍です。

目次
第1章 食事が脳をつくる
第2章 食べ物で変わる脳の働き
第3章 食べ物が引き起こす脳のトラブル
第4章 食べ物が心と身体を健康にする
第5章 脳ストレスを食べ物でなくす
第6章 ブレインフードが脳をよくする
第7章 脳によい食事を実践する