2012年5月16日水曜日

乳酸=疲労ではない

東京大学の八田秀雄教授の研究室HPに「乳酸=疲労ではない」という記載があります。

http://idaten.c.u-tokyo.ac.jp/~hatta/

乳酸は今まで疲労物質、疲労の原因だと考えられてきましたが、そうではないことを科学的に検証しています。上記HPより一部引用します。以下、引用です。

実際には、乳酸ができるのは酸素がないからではなく、糖の利用が高まるからです。そして糖の利用過程で一時的にできるのが乳酸ですから、乳酸は老廃物ではなく、エネルギー源です。遅筋線維や心筋で多く酸化されエネルギーになっています。乳酸=糖なのです。そして糖を完全に利用する過程の途中でできるのが乳酸です。疲労ということも乳酸が無関係とは言いませんが、乳酸だけで疲労を説明するのは誤りです。

以上、引用です。解糖系とTCA回路、電子伝達系を考えればわかりますが、乳酸からピルビン酸、アセチルCoAを経て、最終的に18ATPを産生することができます。このようなエネルギー源が悪者とされてきたこと自体が不思議です。

また、「無酸素」という用語を使うのはやめませんかという提言をしています。以下、引用です。

無酸素運動といいますが、体内が無酸素になることはありません。乳酸は無酸素状態でできるものではなく、酸素があってもそれ以上に糖分解が進めばできるものです。(中略)自転車最大パワーのような強度の高い瞬発的な運動であっても、必ず酸素は使われてもいます。本来の無酸素という言葉が意味することと、実際に起きていることとは違っています。そこで無酸素運動、無酸素的代謝、といった用語を使うのは不適切です。強度の高い運動は、高強度運動といえばよいことです。

以上、引用です。今まで運動を有酸素運動とレジスタンストレーニングと分類してきましたが、レジスタンストレーニングも有酸素運動であり、無酸素運動ではありません。今後は、ウオーキング(等の運動)とレジスタンストレーニングと種目別に分類したほうがよいかもしれません。

その他にも運動生化学的に興味深い内容が記載されていますので、興味のある方はぜひ八田研究室のHPを見ていただければと思います。

2 件のコメント:

  1. 佐久間邦弘5/16/2012

    若林先生 乳酸のことをずっとずっと研究してきた八田先生の紹介ありがとうございます。東大の優秀な教授の一人だと僕は個人的に尊敬してる方です。これだけストイックに一つのことを追い続けることなかなかできないものですよね。。。乳酸については以前から誤解が多く、その意識を変えたいという気持ちからでしょう。日本ではマスコミを中心に、なるべく簡単にサイエンス的データを解釈しようという癖があるみたいですね。悪者を一つに決めてしまい、断定的な物言いがメディアに受けるという日本的体質が生んだ負の遺産(乳酸は疲労物質)なのだと強く感じます。少しでも多くのヒトにこの乳酸に関する正確な知識が普及してくれることを切に願います。

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  2. 佐久間先生、どうもありがとうございます。タイムリーかもしれませんが、昨日の某テレビ番組でも乳酸の血中濃度で疲労を評価していました(苦笑)。日本的体質はマスコミにもそれを容易に受け入れてしまう視聴者にも要因はあるのでしょうけれど、前者のほうがより重症だと感じます。初めて知ったという声もいくつか聞かれましたので、紹介してよかったです。
    あと、1つのことを研究し続けるということの重要さを改めて感じました。この姿勢を見習わないといけませんね。

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