2012年5月2日水曜日

SNPはがん食欲不振と関連なし

がん患者の食欲不振に遺伝的な原因があるかどうかを探索した論文を紹介します。

Tora S. Solheim, et al: Is there a genetic cause of appetite loss?—an explorative study in 1,853 cancer patients. Journal of Cachexia, Sarcopenia and Muscle, doi:10.1007/s13539-012-0064-8

下記HPで全文見ることができます。
http://www.springerlink.com/content/j306428541v1g811/fulltext.pdf

がん患者では食欲不振、体重減少を認めることが多いですが、認めない患者もいます。そこで遺伝的な原因として、93の一塩基多型(SNP、single-nucleotide polymorphisms)が、がん患者の食欲不振と関連しているかを探索的に調べました。

一塩基多型はWikipediaを参照してください。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%80%E5%A1%A9%E5%9F%BA%E5%A4%9A%E5%9E%8B

結果ですが、一塩基多型がん患者の食欲不振には統計学的に有意な関連を認めませんでした。この結果で遺伝的な関与がないとは言い切れませんが、単一の一塩基多型が、がん患者の食欲不振に大きな影響を与えていることはなさそうという結論です。

がん患者の食欲不振に、単一要因ではなく多要因で遺伝が関与している可能性はあるかもしれません。薬物療法(EPAや六君子湯など)がどんな患者に効きそうでどんな患者に効かなそうかくらいでも、遺伝研究でわかるようになると臨床的には嬉しいですね。

Abstract
Background Appetite loss has a major impact on cancer patients. It is exceedingly prevalent, is a prognostic indicator and is associated with inferior quality of life. Cachexia is a multi-factorial syndrome defined by a negative protein and energy balance, driven by a variable combination of reduced food intake and abnormal metabolism. Not all cancer patients that experience weight loss have appetite loss, and the pathophysiology between cachexia and appetite loss may thus be different. Knowledge of pathophysiology of appetite loss in cancer patients is still limited. The primary object of this study was to explore the association with 93 predefined candidate single-nucleotide polymorphisms (SNPs) and appetite loss in cancer patients to possibly generate new theories of the pathophysiology of the condition.

Methods A total of 1,853 cancer patients were phenotyped according to appetite loss and then genotyped.

Results After allowing for multiple testing, there was no statistically significant association between any of the SNPs analysed and appetite loss. The ten most significant SNPs in the co-dominant model had observed odds ratios varying from 0.72 to 1.28.

Conclusions This large exploratory study could not find any associations with loss of appetite and 93 SNPs with a potential to be involved in appetite loss in cancer patients. This does not however rule out genes putative role in the development of the symptom, but the observed odds ratios are close to one which makes it unlikely that any of the individual SNPs explored in the present study have great importance.

6 件のコメント:

  1. 佐久間邦弘5/03/2012

    若林先生 ご無沙汰してます。SNPとがん食欲不振との関係を検証した論文紹介ありがとうございました。関係しないという結果を見て安心しました。僕の個人的な見解で申し訳ないのですが、SNPのことをあまり信用してません。SNPでガン、糖尿病、高血圧といった病気との関連を証明した研究でも、環境要因の方が圧倒的に大きいという話があまりにも多くありませんか?遺伝子を調べてオーダーメイド医療なんて言葉が一時期はやりましたが、薬物療法の効果はやはり現場のプロが判断するしかないというのが本当のところではないでしょうか。。。あくまでも僕の個人的な見解ですので、意見の厳しさ、偏りについてはご容赦くださいませ

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  2. 佐久間先生、どうもありがとうございます。確かにSNP1つと疾患との関連を見れば、環境要因のほうが大きいですよね。そのぶん、栄養療法や運動療法、リハ栄養でできることが少なくない(限度はありますが)と考えています。
    オーダーメイド医療は確かに実現するとしても、当分先のような気がします。薬物療法の当たり外れはありますが、運動療法は当たり外れは少ないですし。

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    1. 佐久間邦弘5/05/2012

      若林先生 ちょっと悩んだのですが、SNPの件本音で文章書いてみて良かったです。お世辞が下手で、言いたいことを比較的ずばっと言ってしまうので、以前医学部に居た時には大変苦労したんですよぉ。教授をおだてられないタイプで、上司としては扱いにくかったろうなあ(笑)分野はちょっと違うのですが、先生と僕結構感覚が似てる気がしてます。

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  3. 佐久間先生、本音で書いてくださり、どうもありがとうございます。確かに私も言いたいことをずばっと言ってしまう人です。それでやりすぎてしまったこともあります(苦笑)。6月の食事会が楽しみです。よろしくお願い申し上げます。

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  4. 佐久間邦弘5/07/2012

    若林先生 こんばんは。僕も食事会が楽しみです。SNPの件で思ってること言えて爽快でした。たまたまですが、ヨーロッパからグラントの外部審査員をこのGWで頼まれ、SNPとカヘキシーのCohort研究の担当なんですよ(笑)大御所の方だからちょいビビる部分ありますが、僕の名前は外に漏れないみたいなんで、書きたいこと思いっきり展開しようと思ってます。しかしこんな偶然あるんですね。。。

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  5. 佐久間先生、どうもありがとうございます。SNPとカヘキシーのCohort研究の外部審査員ですか。とてもタイムリーです(笑)。この研究でSNPの関与はなさそうという結果が出ているのに、無駄金になりそうですよね…。

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