2012年2月14日火曜日

週刊医学界新聞:虚弱高齢者と入院関連機能障害

週刊医学界新聞の第2965号、2012年02月13日に、高齢者を包括的に診る老年医学のエッセンス【その14】 An Inconvenient Truth in Geriatrics―虚弱高齢者と入院関連機能障害が掲載されています。リハ栄養的にも学びの多い記事ですので、ぜひ読んでいただければと思います。
http://www.igaku-shoin.co.jp/paperDetail.do?id=PA02965_03

ここではリハ栄養的に上記に紹介されている症例を分析してみたいと思います。以下、上記HPから症例の引用です。

【症例】 2人の娘からとても愛されている87歳の虚弱高齢女性Sさんは,重度心臓弁膜症によるうっ血性心不全と軽度認知症(MMSEスコア23点)を持ち,有料老人ホームに入居している。あるとき,軽症の急性肺炎をきっかけに心不全が増悪した。2年前に同様の病態で病院に入院した際にはせん妄や院内感染を合併,それによる長期臥床からADL低下を来し,結果的に現在の老人ホームへ入居となった経緯がある。今回,2人の娘に病院受診の必要性を持ちかけたところ「可能ならホームで治療してほしい」と懇願された。

以上、引用です。虚弱高齢女性とあるように、この女性はサルコペニアに該当することが推測されます。その要因としては加齢、疾患(うっ血性心不全による悪液質)を考えますが、栄養(飢餓)や活動(廃用)の要素も合併している可能性はあります。

以下、上記HPから症例続きの引用です。

【症例続き】 施設スタッフがホームでの治療に不安を示したため,近くの病院に入院加療をお願いした。Sさんは入院直後からせん妄を発症,酸素チューブや点滴ライン,尿路カテーテルの抜去を試みるなど安静が保てなくなり,やむなく身体抑制された。また薬物による鎮静も併用された。うっ血性心不全の治療成功後も食事量は減少したままで,栄養状態は悪化。長期臥床による筋力低下も進行し,リハビリの効果も上がらなかった。1か月後,Sさんはベッドから起き上がれないほど可動性が低下し,すべてのADLに介助が必要なほど虚弱化していた。退院後3か月たった現在でも,可動性や日常生活機能の回復はみられていない。

以上、引用です。ありがちな症例ですよね。リハ的には「廃用症候群」と診断しますが、この方にリハの効果が上がらないのも頷けます。入院でサルコペニア(広義)が悪化しましたが、その要因としては、疾患(肺炎、心不全による侵襲)、栄養(食事量減少による飢餓)、活動(長期臥床および身体抑制による廃用)を考えます。

もちろんサルコペニア以外にも、認知機能低下の進行やPolypharmacyなどの問題もあると思います。しかし、ADL低下・全介助への影響が大きいのはサルコペニア(広義)の悪化です。予備力が少ない虚弱高齢者では回復困難なことが少なくありませんが、リハ単独よりもリハ栄養のほうが回復できる可能性は高くなると考えます。

最後に上記HPに紹介されていたJAMAの論文の抄録を掲載しておきます。Hospitalization-associated disabilityは老年症候群と廃用症候群が重複した領域であり、とても重要だと思います。

Covinsky KE, Pierluissi E, Johnston CB. Hospitalization-associated disability: "She was probably able to ambulate, but I'm not sure". JAMA. 2011 Oct 26;306(16):1782-93.

Abstract
In older patients, acute medical illness that requires hospitalization is a sentinel event that often precipitates disability. This results in the subsequent inability to live independently and complete basic activities of daily living (ADLs). This hospitalization-associated disability occurs in approximately one-third of patients older than 70 years of age and may be triggered even when the illness that necessitated the hospitalization is successfully treated. In this article, we describe risk factors and risk stratification tools that identify older adults at highest risk of hospitalization-associated disability. We describe hospital processes that may promote hospitalization-associated disability and models of care that have been developed to prevent it. Since recognition of functional status problems is an essential prerequisite to preventing and managing disability, we also describe a pragmatic approach toward functional status assessment in the hospital focused on evaluation of ADLs, mobility, and cognition. Based on studies of acute geriatric units, we describe interventions hospitals and clinicians can consider to prevent hospitalization-associated disability in patients. Finally, we describe approaches clinicians can implement to improve the quality of life of older adults who develop hospitalization-associated disability and that of their caregivers.

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