2012年4月10日火曜日

日本人女性の腹筋の加齢変化

日本人女性の腹筋の加齢による変化を調査した論文を紹介します。

Megumi Ota, et al: Age-related changes in the thickness of the deep and superficial abdominal muscles in women. Archives of Gerontology and Geriatrics, Available online 6 April 2012 http://dx.doi.org/10.1016/j.archger.2012.03.007

対象は歩行が自立している健康な女性103人です。20-24歳、25-44歳、45-64歳、65-74歳、75-85歳の5群に分けています。右の腹直筋、外腹斜筋、内腹斜筋、腹横筋の筋肉の厚さを超音波エコーで評価しています。



上図のA:腹直筋、B:外腹斜筋、C:内腹斜筋、D:腹横筋です。

結果ですが、腹直筋は20-24歳の群で他の4群と比較して有意に厚かったです。外腹斜筋と内腹斜筋は20-24歳の群で、45歳以上の3群と比較して有意に厚いという結果でした。一方、腹横筋には5群間で有意差を認めませんでした。加齢変化は表在の腹筋で早期におこりやすく、深部の腹筋(インナーマッスル)におこりにくい可能性があります。

加齢によるサルコペニアは抗重力筋(頚部筋群、僧帽筋下部、広背筋、腹筋、膝伸筋群、殿筋群など)に認めやすいので、抗重力筋である腹直筋で最も早期から加齢による変化を認めるのは納得できます。インナーマッスル(腹横筋)の筋トレの重要性も言われることがありますが、サルコペニア予防には腹直筋、外腹斜筋、内腹斜筋ですね。

なお抗重力筋には、頚部筋群のなかに舌骨上筋群も含まれます。つまり、舌骨上筋群も加齢によるサルコペニアを認めやすい筋肉の1つです。これがPresbyphagia(老嚥)に関連している可能性があります。また、加齢以外の原因も含めたサルコペニアによる摂食・嚥下障害とも関連していると思われます。

Abstract
The study investigated age-related changes in the thickness of the deep and superficial abdominal muscles of 103 healthy women who could walk independently The participants were classified into five age groups: young (n = 26; 20–24 years), young adult (n = 26; 25–44 years), middle-aged (n = 16; 45–64 years), young-old (n = 16; 65–74 years), and old-old (n = 19; 75–85 years). The muscle thicknesses of the right rectus abdominis, external oblique, internal oblique, and transversus abdominis were measured using ultrasound imaging. The rectus abdominis was significantly thicker in the young group compared with the young adult, middle-aged, young-old, and old-old groups (p < 0.05). The external oblique and internal oblique muscles were significantly thicker in the young group compared with the middle-aged, young-old, and old-old groups (p < 0.05). However, there were no significant differences in the thickness of the transversus abdominis between groups. The results suggest that age-related muscle atrophy occurs from an early age in superficial abdominal muscles, such as rectus abdominis, and that age-related atrophy is less in deep abdominal muscles such as the transversus abdominis.

6 件のコメント:

  1. 佐久間邦弘4/15/2012

    若林先生 興味深い論文紹介ありがとうございました。先生の文章を見てて、ん?そうなの?と思う部分がありました。サルコペニアはヒトの抗重力筋(頚部筋群、僧帽筋下部、広背筋、腹筋、膝伸筋群、殿筋群など)に起こりやすいのですか?実験動物での詳細な研究から、強い力を発揮する時に使われるtype II線維(fast線維, 特にtype IIB線維)で加齢による選択的萎縮が起こるのだというのが通説になってます。2足歩行と4足歩行の違いもあるのかもしれませんが、ヒトと動物ではやっぱり色々違うのでしょうね。1つ勉強になりました。ありがとうございます。

    返信削除
  2. 佐久間先生、いつもどうもありがとうございます。抗重力筋におこりやすいと言われていますが、原著論文で見た記憶は少ないです。例えば下記の論文は大腿四頭筋と腹筋に加齢による変化を認めやすいとあります。サルコペニアの場合、2足歩行と4足歩行の違いは確かに大きいですよね。こちらこそありがとうございます。

    Abe T, Kawakami Y, Kondo M, Fukunaga T: Comparison of ultrasound-measured age-related, site-specific muscle loss between healthy Japanese and German men. Clin Physiol Funct Imaging. 2011 Jul;31(4):320-5. doi: 10.1111/j.1475-097X.2011.01021.x.
    http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21672141

    返信削除
    返信
    1. 佐久間邦弘4/16/2012

      若林先生 返信ありがとうございます。そうなんですよねぇ。。。意外に通説と言われてるものでもしっかり証明した論文を探すのに苦労することあるんですよね。真剣に探した結果、著名な先生が自分の本で単に主張してただけ。。というようなケース僕の専門分野でも結構あります。もと東大の福永先生のグループの仕事ですね。腹筋は確かに抗重力筋かなと思いますが、大腿四頭筋の中で中間広筋以外(外側広筋、大腿直筋、内側広筋)は抗重力筋では無いと思ってるのですが、ヒトだと分類方法が違うのでしょうか。。。もしご存知でしたら教えて下さい。

      削除
  3. 佐久間先生、どうもありがとうございます。これが適切かどうかの判断はわかりませんが、単関節筋群が抗重力筋という考え方があるようです。そうすると、中間広筋・外側広筋・内側広筋が抗重​力筋で、大腿直筋が抗重力筋ではないということになります。よろしくお願いいたします。

    返信削除
  4. 太田恵4/22/2014

    たまたま先生のサイトに辿り着きました。
    著者の太田です。読んでいただきありがとうございます。
    まだ自身の考えがまとまっていない段階なのですが、
    早期に萎縮する筋というのは活動性を維持(例えば『早く歩く』など)するために重要な意味があると思うのですが、逆に腹横筋は最後まで残るので特に重要なのでは?と考えています。実際、歩行可能な高齢者では腹横筋は維持されていますが、寝たきりになると萎縮するという報告もあります。
    私はサルコペニアが専門ではなく、腰痛・変形性関節症のリハビリや体幹・股関節の病態運動学などの研究をしているので、無知な部分が多いです。ぜひ色々ご教授ください。

    返信削除
  5. 太田先生、横浜市大センター病院の若林と申します。コメントをくださり、どうもありがとうございます。確かに最後まで残るような筋肉こそ重要という考え方もありますね。下肢では大腿四頭筋が低下しやすいのでその筋トレが重要と言われていますが、むしろハムストリングが低下するようでは危険かもしれませんね。両方とも筋トレするのがベストなのでしょうけれど。こちらこそ今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。どうもありがとうございます。

    返信削除