2011年9月28日水曜日

特定の虫歯菌が脳出血のリス​クを約4倍高める?

特定の虫歯菌が脳出血のリスクを約4倍高めるという新聞記事が今日ありました。その論文を永長先生に教えてもらったので、紹介させていただきます。

Kazuhiko Nakano, et al: The collagen-binding protein of Streptococcus mutans is involved in haemorrhagic stroke. Nature Communications 2, Article number:485 doi:10.1038/ncomms1491

下記のHPで全文見ることができます。

http://www.nature.com/ncomms/journal/v2/n9/full/ncomms1491.html

Nature Communicationsは昨年刊行されたばかりのオンライン雑誌ですので、インパクトファクターは不明ですが、かなりのインパクトがあると思います。私は基礎研究のところはまったく解説・コメントできませんので、臨床研究のところだけコメントさせていただきます。

臨床研究の部分は、下記のTable1に尽きます。

http://www.nature.com/ncomms/journal/v2/n9/full/ncomms1491.html

脳出血患者74人と年齢をマッチさせた脳卒中の既往のない対照者35人で、脳出血のリスクを高める可能性がある特定の虫歯菌(cnm-positive S. mutans)の分離割合を比較しています。

虫歯菌全体での分離割合は57.1%対55.4%とほぼ同様ですが、特定の虫歯菌の分離割合は8.5%対27.0%であり、P=0.0423、オッズ比が3.95 (95%信頼区間1.09–14.35)でした。この結果が、「特定の虫歯菌が脳出血のリスクを約4倍高める」ということです。以下、批判的吟味です。

対照者は脳卒中だけでなく、心不全、糖尿病、関節リウマチ、肝疾患、腎疾患、消化管疾患、高血圧、貧血の既往がない方から選択しています。つまり健常者に近い方たちで、口腔衛生は比較的良好だったのではと思われます。残存歯が平均何本といったデータなどがあればよりわかりますが。一方、脳出血患者は高血圧などの併存疾患が少なくなかったはずです。詳細は不明ですが。

対照の選択として健常者に近い方が最適かと言われれば、個人的には疑問を感じます。年齢、性別、高血圧、脳卒中としての重症度(NIHSSやADL)でマッチさせた脳梗塞患者を対照とするほうが、より脳出血のリスクを明らかにしてくれる気がします。もしくは交絡因子について多変量解析をしていただけると、より納得できます。

オッズ比は3.95と約4倍ですが、95%信頼区間は1.09–14.35とギリギリです。つまり、脳出血のリスクを4倍高めるかもしれないし、1.09倍だけ高めるかもしれません。もちろん14.35倍高める可能性もありますが、こういうときは厳しめに見積もるほうが無難だと考えます。

臨床研究の部分に関して言えば今後、コホート研究(後向きでも前向きでも)など、より質の高い研究デザインで検証する必要があります。今回は「特定の虫歯菌が脳出血のリス​クを約4倍高める可能性があるかもしれない」という程度の解釈にとどめておくべきだと私は考えます。

Abstract
Although several risk factors for stroke have been identified, one-third remain unexplained. Here we show that infection with Streptococcus mutans expressing collagen-binding protein (CBP) is a potential risk factor for haemorrhagic stroke. Infection with serotype k S. mutans, but not a standard strain, aggravates cerebral haemorrhage in mice. Serotype k S. mutans accumulates in the damaged, but not the contralateral hemisphere, indicating an interaction of bacteria with injured blood vessels. The most important factor for high-virulence is expression of CBP, which is a common property of most serotype k strains. The detection frequency of CBP-expressing S. mutans in haemorrhagic stroke patients is significantly higher than in control subjects. Strains isolated from haemorrhagic stroke patients aggravate haemorrhage in a mouse model, indicating that they are haemorrhagic stroke-associated. Administration of recombinant CBP causes aggravation of haemorrhage. Our data suggest that CBP of S. mutans is directly involved in haemorrhagic stroke.

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