正常~軽度低栄養の大腿骨頸部骨折に対する周術期の経口栄養剤投与の効果をみたランダム化比較試験を紹介します。
Botella-Carretero JI, Iglesias B, Balsa JA, Arrieta F, Zamarrón I, Vázquez C: Perioperative oral nutritional supplements in normally or mildly undernourished geriatric patients submitted to surgery for hip fracture: a randomized clinical trial. Clin Nutr. 2010 Oct;29(5):574-9.
リサーチクエスチョンは、
P:大腿骨頸部骨折患者に
I:術前に栄養剤(1日400kcal、蛋白40g)を投与すると
C:栄養剤を投与しなかった場合と比較して
O:血清アルブミン、プレアルブミン、レチノール結合蛋白が改善するか
D:マスキングのないランダム化比較試験
です。
アウトカムとしてBMI、上腕周囲長、上腕三頭筋皮下脂肪厚も評価していますが、これらは周術期合併症の影響による体重減少や多量輸液や他の因子の影響も受ける可能性があるので、有意な変化を認めないのではないかということで、二次アウトカムとなっています。
結果は下記の図のとおりです。栄養剤は実際には術前に6日間程度、平均52.2%摂取していました。
黒丸が介入群、白丸が対照群です。数値では示されていませんが、血清アルブミン、プレアルブミンは介入群で統計学的に有意に高値で推移しました。レチノール結合蛋白も統計学的有意差はありませんが、介入群で高値の傾向を示しました(p=0.089)。なおCRPの記載はありません。
二次アウトカムとしてBMI、AC、TSFは統計学的有意差を認めませんでした。入院期間、合併症(術後合併症に関してはp=0.091で介入群で少なめ)、退院先に関しても有意差を認めませんでした。ADLや歩行能力は、おそらく大差ないものと推測します。結論として周術期の経口栄養剤投与で血清蛋白がより早期に回復するとしています。
まず一次アウトカムを検査値のみとしていることが問題です。栄養状態(MNA、SGAなど)やADL、歩行能力の変化を一次アウトカムとすべきでしょう。今回はこれらの変化は明確にされていませんが、おそらく大きな変化は認めなかったものと思われます。ベースラインのMNAは対照群18.8点、介入群18.5点とAt riskです。
次に一次アウトカムに統計学的有意差は認めていますが、臨床的な有意差はあるでしょうか。図から推測する限り、介入群と対照群の差はアルブミンで0.3g/dl、プレアルブミンで3mg/dl程度に見えます。臨床的な意味がないとはもちろん言いませんが、臨床的に大きな差とはいえない気がします。
以上より正常~軽度低栄養の大腿骨頸部骨折に対する周術期の経口栄養剤投与の有効性は不十分だと思います。むしろ明らかに低栄養の大腿骨頸部骨折に対して、術前だけでなく術後も経口栄養剤を投与すべきではないでしょうか。
個人的にはこんなランダム化比較試験を回復期リハ病棟でできればと思うのですが、どなたかやってみませんか(笑)。
P:低栄養の大腿骨頸部骨折患者に
I:栄養剤(1日400kcal、蛋白20g、BCAA5g)を投与すると
C:栄養剤(1日200kcal、蛋白10g、BCAA2.5g)を投与する場合と比較して
O:ADLがより改善するか(二次アウトカムとして栄養状態、退院先がより改善するか)
D:一重マスキングのあるランダム化比較試験
Abstract
BACKGROUND:
Oral nutritional supplements have been recommended after orthopedic surgery in geriatric patients. This has been shown to be effective even in normally nourished or mildly undernourished geriatric patients. Whether perioperative administration of these products is also effective and suitable is not known.
METHODS:
Randomized, controlled, open, paralleled two-arms clinical trial, comparing energy-protein supplements (40 g of protein and 400 kcal per day), with no intervention in normally nourished or mildly undernourished patients. Outcomes were serum proteins, body mass index, postoperative complications among others.
RESULTS:
60 Elderly patients were included. Patients in the intervention group (n = 30) ingested 52.2 ± 12.1% of the prescribed supplements per day for 5.8 ± 1.8 days before surgery and until hospital discharge. There was a significant change in serum albumin at follow-up (F = 22.536, P < 0.001), and between the two groups (F = 5.763, P = 0.002), favouring the intervention. The same was observed for serum prealbumin (F = 6.654, P = 0.001 within subjects, F = 2.865, P = 0.045 for interaction). Logistic regression showed that only supplemented proteins per day (OR[95%CI] = 0.925[0.869-0.985]) were associated with less postoperative complications (R(2) = 0.323, χ(2) = 11.541, P = 0.003).
CONCLUSION:
Perioperative supplements in geriatric patients with hip fracture submitted to surgery showed better recovery of plasma proteins. Higher daily protein intakes were associated with less postoperative complications.
0 件のコメント:
コメントを投稿