2014年4月27日日曜日

第1回日本サルコペニア・悪液質・消耗性疾患研究会報告

第1回日本サルコペニア・悪液質・消耗性疾患研究会が4月26日に学士会館で開催されました。第1回はクローズな会でしたし、まだ研究会HPなどありませんので、少し紹介させていただきます。プログラムは以下の通りでした。

開会の辞:城谷典保先生(日本サルコペニア・悪液質・消耗性疾患研究会代表世話人)
昨年8月の発起人会から今日までの経緯を紹介が主でした。第2回は早ければ11~12月に東京で開催予定です。次回はオープン参加になります。

演題1:老年医学におけるサルコペニア研究の現状
鈴木隆雄先生(国立長寿医療研究センター研究所)
地域在宅高齢者のフレイルとサルコペニアに関する研究成果の紹介が主でした。歩行速度は死亡率、要介護などの強力な予後因子であるため、歩行速度をサルコペニアの診断基準に入れるのはよくないのではという考え方は参考になりました。

サルコペニアの定義にはまだ混乱があります。加齢による筋肉量減少のみをサルコペニアとすべきだという方と、EWGSOPのコンセンサス論文通り、歩行速度と握力が正常であれば筋肉量を測定しなくてもサルコペニアではないという方がいます。

AWGS(Asian Working Group for Sarcopenia)の会議は今度6月に台湾?で開催されるそうです。アジアにおけるサルコペニアは以下の日本語HPが参考になります。
http://www.wiley.co.jp/blog/health/?p=3596

演題2:高齢者の食力から考える虚弱・サルコペニア予防
飯島勝矢先生(東京大学高齢社会総合研究機構)
柏プロジェクトの紹介が主でした。食力の5本柱は栄養、身体、口腔・嚥下、多病・薬剤、社会・生活・精神・心理・認知とのことです。オーラルフレイルという言葉も作り、口腔、医科歯科連携の重要性をとても強調していました。

筋肉量測定に検査機器を用いないでサルコペニアを判定する方法として、指輪っかテストの紹介がありました。両手で下腿の最も太いところを囲めるかどうかという簡単なテストで、囲めない、ちょうど、余るの3つに分類します。

指輪っかテスト:両手で下腿の最も太いところを囲めなければサルコペニアなし、ちょうど囲める場合には前サルコペニア、囲めて両手と下腿の間にスペースができる場合にはサルコペニアと判断します。これはとても簡単でよいと思いました。

もう1つ、年齢、握力、下腿周囲長の3項目でサルコペニアの可能性を評価する簡易スクリーニングの紹介がありました。こちらは下記ブログをご参照ください。
http://rehabnutrition.blogspot.jp/2014/01/blog-post_579.html

演題3:悪液質のトランスレーショナルリサーチ‐7th Cachexia Conferenceハイライトを中心に‐
乾明夫先生(鹿児島大学大学院医歯学総合研究科心身内科学分野)
前半は悪液質のメカニズムと対応の紹介、後半は昨年12月に乾先生が大会長で開催された7th Cachexia Conferenceのハイライトの紹介が主でした。

悪液質のメカニズムに関しては書籍「悪液質とサルコペニア」で網谷先生、乾先生が執筆して下さった項目「悪液質のメカニズム」が日本語でわかりやすいと思います。宣伝ですが(笑)読んでいただけると嬉しいです。
http://www.ishiyaku.co.jp/search/details_1.aspx?cid=1&bookcode=214410

7th Cachexia Conferenceのハイライトは、Highlights from the 7th Cachexia Conferenceの論文を読んでいただければわかると思います。下記HPで全文読めます。
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3953317/

以下、感想です。日本サルコペニア・悪液質・消耗性疾患研究会が立ち上がったことは素晴らしいと思います。欧米に比べ10年以上は遅れている領域だと感じますが、追いつく取り組みが始まりました。私も世話人ですので頑張らないとですね。

研究者の講演3つでしたが、臨床研究者もしくは臨床家の講演も次回はあるとよりディスカッションが深まるのではと感じました。研究のサルコペニアと臨床のサルコペニアにはまだまだ壁があります。
http://rehabnutrition.blogspot.jp/2012/01/blog-post.html

老年医学の先生の講演でしたのでフレイルの早期発見、予防、治療が主なテーマになるのは当然です。ただ障害になった後の対応がケアのみというのは、リハ医として残念に感じました。リハ栄養で臨床、研究をもっと進めないといけませんね。

飯島先生の講演で口腔、嚥下、歯科との連携をとても重視していたことが、最も印象的でした。医科からこれだけの熱いラブコールが歯科に送られていることを、多くの歯科関係者に知ってほしいと感じました。

最後に昨日時点での役員を紹介させていただきます。私以外すごいメンバーです。
代表世話人:城谷典保、世話人:蘆野吉和、石渡一夫、乾明夫、葛谷雅文、東口髙志、福田能啓、福山直人、丸山道生、若林秀隆

2014年4月22日火曜日

講演依頼へのお詫び

ブログを更新できていない件もお詫びしなければいけませんが、他にもお詫びがあります。

講演依頼が1日1~3件という日が1カ月以上続いています。7~12月の講演予定はすでに53件あり、申し訳ありませんが大半の講演依頼はお断りせざるを得ません。ようやくリハ栄養やサルコペニアが各地・多職種で浸透しつつあるのかもしれませんが、嬉しい悲鳴です。

リハ栄養やサルコペニアの講演依頼に関しては、お断りする際に関係各位の先生方を紹介させていただきます。お役に立てず、また関係各位の先生方には無茶ぶりでご迷惑をおかけしますが、ご理解とご協力の程何卒よろしくお願い申し上げます。

2014年4月2日水曜日

頭部挙上筋力は嚥下障害と栄養障害と関連する

虚弱・フレイルの高齢者で頭部挙上筋力は嚥下障害と栄養障害と関連するという論文がGeriatrics & Gerontology InternationalのHPに掲載されました。
 
Wakabayashi H, et al. Head lifting strength is associated with dysphagia and malnutrition in frail older adults. Geriatrics & Gerontology International, DOI: 10.1111/ggi.12283
 
 
タイトルどおりですが、頭部挙上筋力が弱い方や自力で頭部挙上をできない方は、嚥下機能や栄養状態が悪いことが多いという研究です。限界は多いですが、リハ栄養やサルコペニアの嚥下障害のエビデンスに少しはなると思っています。
 
リサーチクエスチョンは以下のとおりです。
P:摂食嚥下障害もしくは摂食嚥下障害疑いの65歳以上の要支援・要介護高齢者は
E:頭部挙上筋力が強いと(仰臥位で自分の力で頭を持ち上げることができると)
C:頭部挙上筋力が弱い場合と比較して(仰臥位で自分の力で頭を持ち上げることができない場合と比較して)
O:摂食嚥下障害・栄養障害を認めないことが多い
D:横断研究

386人を対象に、頭部挙上筋力は徒手筋力テスト、摂食嚥下障害の程度は臨床的重症度分類(DSS)、栄養状態は簡易栄養状態評価(MNA-SF)で評価しました。頭部挙上筋力と摂食嚥下障害・栄養障害の関連を、調査しました。男性129人、女性257人。平均年齢83歳。

結果ですが、386人中189人(49%)が仰臥位で自分の力で頭を持ち上げることができました。摂食嚥下機能は、79人が正常、138人が誤嚥のない摂食嚥下障害、169人が誤嚥のある摂食嚥下障害でした。栄養状態は、40人が栄養状態良好、171人が低栄養のおそれあり、175人が低栄養でした。

スペアマン順位相関係数では、頭部挙上筋力と摂食嚥下機能(r=0.458)、栄養状態(r=0.331)、年齢(r=-0.256)に有意な相関を認めました。頭部挙上の可否で2群に分類すると、頭部挙上を自力でできない群のほうが、高齢、摂食嚥下障害、低栄養を有意に多く認めました。

摂食嚥下障害を誤嚥の有無、栄養状態を低栄養の有無で2群に分類してロジスティック回帰分析を行うと、頭部挙上の可否と誤嚥の有無、低栄養の有無の間にそれぞれ独立した関連を認めました。

以上より、高齢者の頭部挙上筋力は摂食嚥下障害、栄養障害と関連を認め、頭部挙上筋力は、摂食嚥下障害重症度のスクリーニングとして有用な可能性があります。

Abstract
Aim: The purpose of this study was to assess the association between head lifting strength, dysphagia, and malnutrition in frail elderly.

Methods: A cross-sectional study was performed in 386 frail elderly
aged 65 years and older with dysphagia or suspected dysphagia. Head lifting strength was assessed by the Medical Research Council score. The severity of swallowing and nutritional status was evaluated using the Dysphagia Severity Scale and the Mini Nutritional Assessment Short Form, respectively. Univariate and logistic regression analyses were applied to examine the associations between head lifting strength, dysphagia, and malnutrition.

Results: There were 129 males and 257 females. Mean age was 83 years. The median Barthel Index score was 30 (interquartile range: 5-65). A total of 189 (49%) elderly could independently lift their head. Based on the Dysphagia Severity Scale, 79 participants had no dysphagia, 138 had dysphagia without aspiration, and 169 had dysphagia with aspiration. The Mini Nutritional Assessment Short Form revealed that 175 elderly were malnourished, 171 were at risk for malnutrition, and 40 had a normal nutritional status. The Medical Research Council score in males was higher compared to females. Head lifting strength was significantly correlated with age (r=-0.256), the Barthel Index (r=0.540), the Dysphagia Severity Scale (r=0.458), and the Mini Nutritional Assessment Short Form (r=0.331). In logistic regression analysis, the Medical Research Council score was independently associated with both dysphagia with aspiration and malnutrition.

Conclusions: Head lifting strength is associated with dysphagia with
aspiration and malnutrition in frail elderly.

2014年4月1日火曜日

嚥下機能・ADL・栄養状態の関係とサルコペニア

入院高齢者の嚥下機能は、ADLや栄養状態(上腕周囲長、下腿周囲長含む)と関連するが年齢とは関連しないという黒田喜寿さんの論文を紹介します。素晴らしいです!

Yoshitoshi Kuroda. Relationship between Swallowing Function, and Functional and Nutritional Status in Hospitalized Elderly Individuals. International Journal of Speech & Language Pathology and Audiology, 2014, 2: 20-26.

下記HPから全文入手可能です。

http://synergypublishers.com/jms/index.php/ijslpa/article/view/445


対象は65歳以上の高齢入院患者133人のうち、パーキンソン病、6か月以内の脳卒中、悪性疾患の方を除外した113人です。平均年齢86.4歳ですので、かなり高齢です。入院の原因疾患は、肺炎もしくは他の呼吸器疾患が80人と大半で、認知症を76人に認めました。

嚥下機能はgraded water swallowing test(GWST)と藤島先生のFILSで評価しています。ADL・身体機能はphysical dependency scaleとcomprehension scaleで、栄養状態は上腕周囲長、下腿周囲長、血清アルブミン値で評価しています。

結果ですが、GWST、FILSともADL・身体機能と栄養状態のすべての項目と有意な関連を認めました。その原因として、疾患・不活動・低栄養による二次性サルコペニアが、嚥下筋や嚥下機能に関与している可能性があります。

サルコペニアの摂食嚥下障害に関する論文は現時点ではほとんどありませんので、とても貴重な論文です。黒田さんはこの道の第一人者ですね。私も黒田さんに付いていけるように頑張らなければと実感しました。読みやすいですし、ぜひ多くの方に読んでほしい論文です。

Abstract
Dysphagia is highly prevalent among hospitalized elderly individuals. However, the underlying mechanism of this condition remains to be elucidated. The primary objective of this study was to investigate the relationship between swallowing function, and functional and nutritional status in hospitalized elderly individuals. The subjects consisted of 113 patients with a mean age of 86.4 years. Those who had Parkinson’s disease and a cerebrovascular accident within 6 months, or malignancy were excluded. Swallowing measures included a graded water swallowing test and food intake level scale; functional measures included a physical dependency scale and a comprehension scale; and nutritional measures included serum albumin levels, mid-upper arm circumference, and calf circumference. Both of the swallowing measures had significant correlations with the functional and nutritional measures but not with age, suggesting that dysphagia in this clinical population is related to functional dependency and malnutrition. Given that sarcopenia is exacerbated by disease, inactivity and malnutrition, the result of the present study is possibly explained using the concept of sarcopenia involving the swallowing muscle mass and its function.