2011年1月31日月曜日

医療系研究論文の読み方・まとめ方

対馬栄輝著、医療系研究論文の読み方・まとめ方―論文のPECOから正しい統計的判断まで、東京図書を紹介します。

http://www.tokyo-tosho.co.jp/kikan/01/index.html

タイトルの通り、この書籍は臨床研究を行うためではなく、原著論文をきちんと読めるようになるための知識がコンパクトに詰まっています。原著論文をあまり読む機会のない初心者から初級者向けの比較的わかりやすい書籍だと思います。抄読会で定期的に論文を読んで内容をディスカッションしている方であれば、新しい発見は少ないかもしれません。

著者がPTですので、特にPT、OTにはとっつきやすい書籍だと感じました。統計的判断をわかりやすく学べる書籍はなかなかありませんが、統計的判断の基本から学習したい方には、一読の価値があると思います。

目次

序 言

第1章 論文のPECOを読む
§1.1 研究論文とは
§1.2 論文の構成をどうするか
§1.3 論文を読める基準とは
§1.4 論文を読んでみる
§1.5 「論文を読んでも問題解決できない」ときには
§1.6 論文のPECOを把握する
1 P:Patient(患者[対象])とは
2 E:Exposure(暴露,介入)とは
3 C:Comparisonとは
4 O:Outcomeとは
5 注意点
§1.7 PECOによる要約を,くり返す
§1.8 PECOの実践例
1 論文の検索
2 論文が見つかったら
3 PECOの実践
§1.9 PECOの要約を練習してみる
§1.10 第1章のまとめ

第2章 研究デザインを読む
§2.1 研究デザインとは
§2.2 研究デザインの分類と解説
1 時間要因による分類
2 割り付けによる分類
3 介入による分類
4 エビデンスレベルによる分類
§2.3 各研究デザインの利点と欠点
1 前向き研究(主にコホート研究)
2 後ろ向き研究(主にケースコントロール研究)
3 横断研究
§2.4 研究デザインの分類を整理する
§2.5 第2章のまとめ

第3章 対象と選択バイアスを読む
§3.1 対象とは
§3.2 対象の何を読むか
§3.3 標本と母集団の関係(サンプリング)
§3.4 平均と標準偏差の意味
§3.5 バイアスとは
§3.6 選択バイアスの代表的な例
1 罹患率バイアス
2 入院バイアス
3 非協力者バイアス・積極協力者バイアス
4 会員バイアス
5 選択バイアスの扱い方
§3.7 選択バイアスを見つける
1 組み入れ手順のチェックポイント
2 調査対象集団と標本(対象)の把握とギャップの評価
3 割り付け方法の評価(実験的研究の場合)
§3.8 第3章のまとめ

第4章 データ測定にまつわるバイアス
§4.1 バイアスの3つの種類
§4.2 情報バイアスとは
§4.3 交絡とは
§4.4 割り付けのランダム化とブラインディング
1 割り付けのランダム化
2 ブラインディング
§4.5 論文の「方法」を読む
1 情報バイアスを見つける
2 情報バイアスに対処しているか
3 交絡を見つける
§4.6 第4章のまとめ

第5章 統計的解析を読むための基礎知識
§5.1 統計的解析を読むまえに
§5.2 投稿規定(統計的解析に関する事項)を読む
§5.3 データの指標:代表値
 平均と中央値の使い分け / 正規分布とは / 平均とSDが使える場合
§5.4 データの尺度
§5.5 統計的検定の原理
 統計的検定とは / 統計的検定の実際例
1 A群の平均とB群の平均に差はない(帰無仮説)とは?
2 帰無仮説と合致するか調べる(対立仮説の採択)
3 合致する確率(検定で求まる確率p)とは?
§5.6 第I種の誤りと第II種の誤り
§5.7 信頼区間
 標本平均と母平均
§5.8 パラメトリック検定とノンパラメトリック検定
1 パラメトリック検定
2 ノンパラメトリック検定
3 パラメトリック検定とノンパラメトリック検定の使い分け
§5.9 第5章のまとめ

第6章 統計的解析を読む 【差の検定編】
§6.1 差の検定とは
 2標本の差 / 対応のある標本
§6.2 差の検定を読む
1 解析の目的
2 検定手法
3 記述統計値,情報
 必要な情報 / p値の判断が重要
4 グラフ,表
5 欠損値,脱落例,外れ値の扱い
6 信頼区間の提示
 95%信頼区間の解釈 / 信頼区間とp値の関係 / 差の程度の判断のしかた
7 β,検出力の問題
8 サンプルサイズ
 統計的検定の問題点 / 差の程度とp値の関係 / p値に影響する3つの要因
9 効果量
 効果量の特徴 / 効果量の使い方
10 交絡
11 ソフトウェア
§6.3 第6章のまとめ

第7章 統計的解析を読む 【分散分析編】
§7.1 分散分析とは
 3標本以上の差の検定
1 1元配置分散分析
 3標本以上の差の検定
2 反復測定による(1要因の)分散分析
 対応のある3変数以上の差の検定
3 2元配置分散分析
 3標本以上の2要因の差の検定 / 要因と交互作用の4ケース
4 反復測定による(2要因の)分散分析
5 分割プロットデザインによる分散分析
6 多重比較法
 3標本,3変数以上の差の検定
§7.2 分散分析を読む
1 解析の目的
2 検定手法
3 記述統計値,情報
 必要な情報
4 グラフ,表
5 欠損値,脱落例,外れ値の扱い
6 信頼区間の提示
7 β,検出力の問題 
8 サンプルサイズ
9 効果量
10 交絡
11 ソフトウェア
§7.3 第7章のまとめ

第8章 統計的解析を読む 【相関編】
§8.1 相関と回帰の違い
1 相関係数
 2種類の相関係数
2 偏相関係数
3 回帰
4 重回帰分析
§8.2 相関を読む
1 解析の目的
2 検定手法
3 記述統計値,情報
 必要な情報
4 グラフ,表
5 欠損値,脱落例,外れ値の扱い
6 信頼区間の提示
7 β,検出力の問題 
8 サンプルサイズ
9 効果量
 相関係数解釈の注意点
10 交絡
11 ソフトウェア
§8.3 第8章のまとめ

第9章 統計的解析を読む 【回帰分析編】
§9.1 回帰分析とは
1 単回帰分析
2 重回帰分析
 単回帰式の場合 / 単回帰式の成分が共通する場合 / 重回帰分析の欠点 / 有効な変数を選択する
§9.2 回帰分析を読む
1 解析の目的
2 検定手法
3 記述統計値,情報
 必要な情報 / 情報解読のポイント
4 グラフ,表
5 欠損値,脱落例,外れ値の扱い
6 信頼区間の提示
7 β,検出力の問題
8 サンプルサイズ
9 効果量
10 交絡
11 ソフトウェア
§9.3 第9章のまとめ

第10章 統計的解析を読む 【分割表の検定(χ2検定)編】
§10.1 分割表の検定とは
 χ2検定とは
1 χ2独立性の検定・適合度検定
2 フィッシャーの正確確率検定・イェーツの補正
3 連関係数
 相関係数との類比
4 リスク比・オッズ比
 リスク比・オッズ比の使い分け
5 感度・特異度
6 ROC曲線
 ROC曲線の読み方
§10.2 分割表の検定を読む
1 解析の目的
2 検定手法
3 記述統計値,情報
 必要な情報 / 情報解読のポイント / 調整済み標準化残差の読み方
4 グラフ,表
5 欠損値,脱落例,外れ値の扱い
6 信頼区間の提示
7 β,検出力の問題 
8 サンプルサイズ
9 効果量
10 交絡
11 ソフトウェア
§10.3 第10章のまとめ

第11章 統計的解析を読む 【多重ロジスティック回帰分析編】
§11.1 多重ロジスティック回帰分析とは
1 多重ロジスティック回帰分析の特徴
 重回帰分析との違い / 多重ロジスティック回帰分析の利点
2 独立変数の選択法
3 解析上の注意点
§11.2 多重ロジスティック回帰分析を読む
1 解析の目的
2 検定手法
3 記述統計値,情報
 必要な情報 / 情報解読のポイント / オッズ比の読み方(1) / オッズ比の読み方(2) / 予測判定スコアの求め方
4 グラフ,表
5 欠損値,脱落例,外れ値の扱い
6 信頼区間の提示
7 β,検出力の問題
8 サンプルサイズ
9 効果量
10 交絡
11 ソフトウェア
§11.3 第11章のまとめ

第12章 統計的解析を読む 【主成分分析・因子分析編】
§12.1 主成分分析・因子分析とは
1 主成分分析
 解析の目的(例)/ 主成分分析の手順 / 寄与率と累積寄与率
2 因子分析
 因子分析の手順
§12.2 主成分分析・因子分析を読む
1 解析の目的
2 検定手法
3 記述統計値,情報
 必要な情報 / 情報解読のポイント/ 因子負荷量の推定方法 / 因子の回転方法 /
 回転方法の使い分け / 因子負荷量解釈のポイント
4 グラフ,表
5 欠損値,脱落例,外れ値の扱い
6 信頼区間の提示
7 β,検出力の問題
8 サンプルサイズ
9 効果量
10 交絡
11 ソフトウェア
§12.3 第12章のまとめ

第13章 研究論文を読む
§13.1 論文をPECOに要約
§13.2 研究デザインの判断
§13.3 バイアスの予想
§13.4 標本抽出・対象の評価
§13.5 割り付けの評価(実験的研究の場合)
§13.6 介入(実験的研究の場合)
§13.7 評価・測定の検討
 5W1Hの確認
§13.8 データ解析
 データ解析の確認事項 / 交絡のチェック
§13.9 考察:解釈と外挿
 考察の記載事項 / 論文を正しく読むために
§13.10 第13章のまとめ

2011年1月30日日曜日

リフレクティブ・マネジャー

中原淳、金井壽宏著:リフレクティブ・マネジャー-一流はつねに内省する、光文社新書を紹介します。

http://www.kobunsha.com/shelf/book/isbn/9784334035280

サブタイトルは「一流は、ここぞという大事な場面ではつねに内省したうえで、アクションをとれる」という意味合いとのことです。

プライマリ・ケア連合学会では、reflective practitioner(内省的実践家)や経験学習モデルの重要性を学会誌などで伝えていますので、これらを普段から意識して学習している方には、目新しいところは多くないかもしれません。一方、これらをきちんと学習したことがない場合には、学ぶところが多い書籍だと思いますのでおすすめです。

私はこの書籍を読んで、自分自身の内省を行い、次のアクションのきっかけを作ることができました。その気になればアクションはすぐに起こせるものだと感じました。でも内省のない行動や、行動のない内省にはならないように気をつけないといけません。経験学習モデルのサイクルをきちんと回すことが大切です。

自分の講演では最近、経験学習モデルについて話すことはしなくなりました。今後は参加者の内省のきっかけ作りをよりできるような講演にしようと思います。

ラーニングバーの取り組みは、今回初めて知りました。

Learning bar@Todai
http://www.nakahara-lab.net/learningbar.html

詳細は上記HPを参照していただくとして、ラーニングバーは

①聞く
②考える
③対話する
④気づく
⑤バーの外で語る

場とのことです。これはなかなかいいなあと感じました。今後、何らかの形でリハ栄養を学習・研究する場・コミュニティを作らなければいけないと考えています。その際、従来の学会のようなかたい組織ではなく、ラーニングバーに近いような場にしてもよいかもと思いました。

目次
はじめに(金井)
第1章 「上司拒否。」と言う前に
第2章 内省するマネジャー――持論を持つ・持論を棄てる
第3章 働く大人の学び――導管から対話へ
第4章 企業は「学び」をどう支えるのか
第5章 企業「外」人材育成
あとがきという名のリフレクション(中原)
やや長めでおせっかいなあとがき(金井)

雑誌Skeletal Muscle

Skeletal Muscleという雑誌が創刊されました。オンラインで無料で全文見ることができるのが嬉しいです。Journal of Cachexia, Sarcopenia and Muscleもそうですが、無料で最新の論文を読むことができるのはありがたいことです。その分、しっかり学習しなければいけない気もしますが…。

http://www.skeletalmusclejournal.com/

臨床医学の雑誌というよりも、骨格筋の分子生物学に関する雑誌です。リハ栄養・サルコペニアの臨床に直結する論文は少ないかもしれませんが、興味深いと私が思う論文があれば紹介していきたいと思います。

今回の中では、Treating cancer cachexia to treat cancerが最も興味深いです。下記HPで全文見れます。

http://www.skeletalmusclejournal.com/content/pdf/2044-5040-1-2.pdf

抄録だけ掲載しておきます。

Abstract
Skeletal muscle wasting is a major component of cachectic states found in a variety of disease settings, including cancer. As increasing caloric intake often provides little benefit in combating muscle loss in cachectic patients, a major research focus has been to develop strategies stimulating muscle anabolic pathways – in an attempt to fight the catabolic pathways induced during cachexia. Two recent papers have reported the beneficial effects of blocking the myostatin/activin signalling pathway in mouse models of cancer cachexia. We discuss the implications of their findings both with respect to the role that this signalling pathway may play in the aetiology of cachexia and with respect to the prospects for targeting this pathway as a therapeutic strategy in patients with cachexia.

第1号内容
Review
Regulation of skeletal muscle growth by the IGF1-Akt/PKB pathway: insights from genetic models
Stefano Schiaffino, Cristina Mammucari
Skeletal Muscle 2011, 1:4 (24 January 2011)

Research
Muscle atrophy induced by SOD1G93A expression does not involve the activation of caspase in the absence of denervation
Gabriella Dobrowolny, Michela Aucello, Antonio Musaro
Skeletal Muscle 2011, 1:3 (24 January 2011)

Commentary
Treating cancer cachexia to treat cancer
Se-Jin Lee, David J Glass
Skeletal Muscle 2011, 1:2 (24 January 2011)

Editorial
Welcome to Skeletal Muscle
David J Glass, Kevin P Campbell, Michael A Rudnicki
Skeletal Muscle 2011, 1:1 (24 January 2011)

2011年1月27日木曜日

6th CACHEXIA CONFERENCE

6th CACHEXIA CONFERENCE(第6回悪液質学術集会)が12月5-7日に神戸で開催されます。月曜から水曜に開催されるところが国際学会らしい気がします。3日間の国内学会なら通常は木曜から土曜に開催されますよね。

http://www.lms-events.com/19/Flyer_Kobe.pdf

以下、上記HPのポスターからの引用です。

Abstract submissions are welcome
> Online submission open from May 1, 2011
> Deadline September 5, 2011
> Poster presentation
> Poster awards
> Young investigator awards

> Chairmen:
Akio Inui, Kagoshima, Japan
Stefan D. Anker, Berlin, Germany
William J. Evans, Research Triangle Park, NC, USA
John E. Morley, St. Louis, MO, USA

> Organization:
Society on Sarcopenia, Cachexia
and Wasting Disorders (SCWD)

TOPICS:

CACHEXIA IN MANY ILLNESSES
• Cancer
• Chronic heart failure
• Chronic kidney disease
• COPD
• Liver cirrhosis
• Infections: AIDS and Sepsis

CACHEXIA AND SARCOPENIA
• Pathophysiology and Biochemistry of Cachexia
• Regulation of food intake
• Proteolysis and muscle wasting
• Lipolytic pathways
• Apoptosis and antophagy
• Neurohormonal activation
• Symptom generation (anorexia, fatigue, shortness of breath)

THERAPIES
• SARMs and other anabolics
• Nutrition and essential aminoacids
• Proteasome inhibitors
• Appetite stimulants
• Anti-catabolic therapies
• Anti-infl ammatory therapies
• Exercise
• Myostatin-targeting therapies
• Late-breaking trial results
• Late-breaking science

CONSENSUS DEVELOPMENT AND DEBATES
• Cachexia defi nition consensus
• Designing clinical trials in cachexia: endpoints
• Nutrition versus drugs

私には興味深い内容だらけですので、フル参加して何らかの発表もできればと考えています。日本で開催されることはめったにないと思いますので、月曜から水曜ではありますが、興味のある方はぜひご参加ください。

リハ栄養の定義変更案

リハ栄養の定義の変更案を考えてみました。ブログのトップはすでに変更してしまいましたが…。

「リハ栄養とは、栄養状態も含めてICF(国際生活機能分類)で評価を行ったうえで、障害者や高齢者の機能、活動、参加を最大限発揮できるような栄養管理を行うことです。」

ご意見等ありましたらいただけるとありがたいです。よろしくお願い申し上げます。

2011年1月26日水曜日

冠動脈バイパス術後患者における術前心臓悪液質は再入院と関係する

雑誌「心臓リハビリテーション」に、冠動脈バイパス術後患者における術前心臓悪液質は再入院と関係するという論文が掲載されています。

飯田有輝ほか:冠動脈バイパス術後患者における術前心臓悪液質は再入院と関係する.心臓リハビリテーション15(2)254-260, 2010.

心臓悪液質の患者の多くは栄養状態や心機能が悪いので、再入院と強く関連することは当然といえば当然かもしれません。ただ、心臓悪液質のエビデンスは現状では少ないので、エビデンスをきちんと作ることは素晴らしいと思います。

この研究では、心臓悪液質は「意図したものではない、あるいは浮腫の軽減によるものではない体重減少が、過去6ヵ月で6%以上生じたもの」とされています。心臓に限らず悪液質の定義としては、体重減少だけでは不十分かと思います。CRP陽性などの検査値異常や食思不振も含めた定義のほうがなおよいと感じました。

推測ですが、心臓以外が原因の悪液質を術前から認める場合、冠動脈バイパス術以外の手術でも再入院と関係するかもしれません。術前に悪液質・前悪液質の有無を診断して、悪液質の場合には栄養・運動・薬物など多方面から介入することが、再入院の予防に大切だと思います。

抄録

【目的】心臓悪液質は、心機能低下例に高率に合併し予後を悪化させる危険因子であるが、再入院との関係は明かされていない。本研究は冠動脈バイパス術(CABG)術前の心臓悪液質と退院後早期の再入院との関係を検討した。

【対象と方法】2006年1月~2008年6月に当院にて待機的にCABGを行った患者127例(平均年齢66.9±9.6歳、女性28例)を対象とし、6ヵ月以内の再入院群25例と対照群102例に分けた。2群間で性別、年齢、術前後のBMIならびに左室駆出率(LVEF)、NYHA、interleukin(IL)-6、総蛋白、アルブミン、コレステロール、ヘモグロビン、術後在院日数の比較、ならびに心不全、心房細動、高血圧、高脂血症、糖尿病、慢性腎不全、陳旧性心筋梗塞、心臓悪液質の有無を比較し、有意差を認めた項目を独立変数としてロジスティック回帰分析を行った。さらに心臓悪液質の有無による患者背景の違いを検討した。心臓悪液質は、「意図したものではない、あるいは浮腫の軽減によるものではない体重減少が、過去6ヵ月で6%以上生じたもの」とした。

【結果】再入院群では、対照群と比較して術前BMI、術前LVEF、NYHAのクラス、総蛋白、アルブミンが低く、術直後IL-6が高値であり(p<0.05)、心臓悪液質、慢性心不全、心房細動、慢性腎不全を有する症例が多かった(p<0.05)。再入院に関連する因子として術前BMI(OR:0.819、95%CI:0.677~0.990、p=0.039)、慢性腎不全(OR:4.722、95%CI:1.046~21.33、p=0.044)、心臓悪液質(OR:5.173、95%CI:1.136~23.56、p=0.034)が抽出された。心臓悪液質合併例は全体の10.2%にみられ、非合併例と比較してBMI、LVEF、NYHAのクラス、ヘモグロビン、総蛋白、アルブミン、中性脂肪が低く、術直後IL-6が高値であり、慢性心不全、心房細動を有する症例が多かった。

【結語】心臓悪液質合併例では、術前の栄養状態が悪く術後炎症作用が強かったことより、心臓悪液質は術後も遷延すると考えられる。本結果は心臓悪液質が再入院に強く関連しており、術後再入院予防の観点からも心臓悪液質進行に対する予防的介入の必要性があると思われた。

慢性期脳卒中の栄養状態と認知機能,運動機能の検討

雑誌「脳卒中」に、慢性期脳卒中の栄養状態と認知機能,運動機能の検討に関する論文が掲載されています。

横山絵里子、中野明子:血管性認知障害のリハビリテーション─慢性期脳卒中の栄養状態と認知機能,運動機能の検討─.脳卒中32:634–640,2010

下記HPで全文PDFファイルで見ることができます。

http://www.jstage.jst.go.jp/article/jstroke/32/6/634/_pdf/-char/ja/

筋力や持久力に関するリハ栄養の研究は増えつつあると思いますが、認知機能・障害と低栄養の関連を調べた研究はまだ少ないのが現状です。この研究では慢性期脳卒中患者で高度な低栄養ほど、ADLや認知機能、言語機能が低いという結果です。

慢性期脳卒中患者での検討ですが、脳卒中急性期の重症度や侵襲の程度は無視できないと思います。重症脳卒中患者では、重症なためにADL、運動機能、認知機能、栄養状態のすべて低くなりやすいです。ただ、回復期での栄養管理が不適切だったために、低栄養でADLや認知機能の改善が少なかったという仮説もあると考えます。

この研究は観察研究ですが、BCAAの投与で認知機能が改善したという報告もあります。エビデンスレベルが高いとはいえませんが、特に低栄養の場合には、適切な栄養管理と同時にBCAAの投与を検討してもよいかもしれません。

最後に考察を一部引用させていただきます。私はこの考察にまったく同感です。

「低栄養は機能障害の原因であり,結果でもある.栄養管理は特定の認知機能を改善させるわけではない.認知障害のリハにおける栄養管理の役割は,直接的な認知機能の改善(ビタミン欠乏による認知症など)や,間接的に体力低下や意欲低下などを改善させることで訓練効果を高め,認知・運動機能の帰結を向上させることである.認知・身体機能の土台固めと維持に栄養管理は不可欠であり,今後更に加速する高齢化に向けて,一層リハ栄養管理の重要性は高まると思われる.」

リハ栄養管理をリハの臨床現場に早く普及させて、さらなる機能改善やADL・QOLの向上に貢献したいですね。

要旨
【目的】脳卒中の栄養状態と認知・運動機能,ADL との関連を明らかにする.【方法】対象は慢性期脳卒中381 例(平均68±11 歳)で,下肢運動年齢(MA),Barthel index(BI),改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS),Functional Independence Measure(FIM),長谷川式簡易知的機能評価スケール(HDS),標準失語症検査(SLTA),行動性無視検査(BIT)の評価と同時期にbody mass index(BMI),血清アルブミン(Alb), 体重変化率を指標に栄養状態を評価した.【結果】栄養状態は全体の69%が低栄養であった.高度な低栄養ほどMA,BI,FIM,HDS,SLTA,BIT は低下していた. 順位相関係数の検討ではMA,BI,HDS,SLTA はBMI やAlb と有意な正の相関を認めた.【結論】低栄養が認知・運動機能やADL 低下に関与する可能性が示された.

2011年1月25日火曜日

都道府県別のNST専門療法士人数


同じく日本外科学会雑誌の111巻6号に、「NSTの現状と展望」という平田先生の原稿があります。こちらも下記HPからPDFファイルをダウンロードできますので、ご一読下さい。

http://ci.nii.ac.jp/naid/110007880646

上記論文の中にNST専門療法士に関する記載があり、都道府県別のNST専門療法士数の図がありましたので、引用しました。これを見るとNST専門療法士が多い都道府県は2009年の時点で、大阪、福岡、東京、愛知、神奈川の順番です。一方でNST専門療法士が少ない都道府県は、秋田、徳島、鳥取、山梨、青森のようです。もちろん人口数、施設数の違いがありますので、一概には比較できませんが。

東京と神奈川はどちらも160~170人程度のNST専門療法士がいて、職種別人数は管理栄養士、薬剤師、看護師、臨床検査技師の順番のようです。これだけ人数がいるので、NST専門療法士の集まりが東京、神奈川、JSPEN首都圏支部のそれぞれ機能しているのだと思います。NST専門療法士の集まりが全国的になればなおよいと思います。

あと気になるのは今年NST専門療法士に合格したPT、OT、ST、DHの人数です。いずれわかるはずですが、どの職種もまだごく少数なのではないかと思います。より多くのPT、OT、ST、DHがNST専門療法士を目指すような働きかけをしていきたいと考えています。

日本外科学会雑誌111巻6号

日本外科学会雑誌111巻6号で、消化器外科における栄養管理の現状と展望という特集が組まれています。
CiNiiのHPからオープンアクセスで見ることができます。

http://ci.nii.ac.jp/vol_issue/nels/AN00188218/ISS0000458045_ja.html

特に大村健二先生が執筆された「高齢者における栄養管理のポイント」には、キーワードが高齢者、栄養管理、サルコペニア、リハビリテーションとなっています。サルコペニアのこともしっかり紹介されていてとても勉強になります。ぜひご一読ください。

和文抄録だけ引用させていただきます。

和文抄録
高齢者の栄養管理の最重要目標は,骨格筋量を維持して日常生活活動度の低下を防止することである.加齢に伴って総エネルギー消費量は低下し,65歳を超えるとその速度は増加する.また,加齢に伴ってインスリン抵抗性が増大する一方,血中からの脂肪粒子の消失速度と脂肪の燃焼速度には高齢者と若年者の間で差を認めない.高齢者には,非蛋白熱源として脂質が糖質と比較してより好ましい.また,高齢者には骨格筋量を維持するため非高齢者よりやや多めの良質な蛋白質の摂取を勧める.高齢者に対する総エネルギー投与量の決定には,簡易式20〜25kcal/kg/日を用いるのが一般的である.また,蛋白質は1.0〜1.2g/kg/日を投与し,非蛋白熱量に占める脂質の割合は非高齢者と同等とする.なお,野菜や果物には発癌のリスクを低下させる効果があるが,高齢者には癌の発生から臨床的に検知可能な癌に至るまでの時間は残されていない.高齢者にことさら野菜や果物の摂取を勧める意義は少ない.高齢者の骨格筋量を保持,あるいは増強するために,必要に応じてリハビリテーションを併施する.また,どのような目的の入院であっても,安易な安静・臥床は慎むよう指導する.医療行為や誤った食物の提供の継続などにより高齢者のADLを人為的に損ねることは回避されるべきである.本格的な高齢化社会を迎え,高齢者の栄養管理食や食に関する既存の概念を捨て去るべき時が来ている.

特集目次
1.特集によせて340
2.NSTの現状と展望341-347
3.外科感染対策からみた栄養管理のポイント348-352
4.高齢者における栄養管理のポイント353-357
5.各種病態における術前・術後栄養管理
a)上部消化管疾患(5.各種病態における術前・術後栄養管理358-362
b)肝・胆・膵疾患(5.各種病態における術前・術後栄養管理363-367
c)下部消化管疾患(5.各種病態における術前・術後栄養管理368-372

2011年1月24日月曜日

三崎保健福祉事務所・栄養管理講習会

直前の案内ですみませんが、明日(1月25日)三崎保健福祉事務所で栄養管理講習会を担当します。

日時:2011年1月25日(火)14時~16時
場所:神奈川県三崎保健福祉事務所(最寄駅:京浜急行線 三崎口駅)
対象:給食施設等の管理栄養士・栄養士
テーマ:リハビリテーション栄養と摂食・嚥下障害

明日は特にわかりやすい話にするようにしたいと考えています。お近くでご都合のつく方はよかったらご参加ください。

2011年1月23日日曜日

COPDの摂食・嚥下障害とリハビリテーション栄養

COPDでは摂食・嚥下障害を認めることが少なくない。男性の外来COPD患者の嚥下造影では、85%に何らかの摂食・嚥下障害を認め、56%に喉頭侵入か誤嚥を認めた。また、19%のCOPD患者が週に1回以上の胸焼けや胃食道逆流の症状を認め、呼吸障害による胃食道逆流の悪化が推測されている。

自験例では、COPDの入院患者でリハ依頼があった患者55人中40人(73%)に摂食・嚥下障害を認めた。高齢、ADL全介助、下肢筋力低下、低栄養の患者で、摂食・嚥下機能が改善しにくいという結果であった。

COPDによる摂食・嚥下障害の原因には、嚥下筋のサルコペニア、呼吸と嚥下反射のタイミングの障害、胃食道逆流、食道入口部開大不全、認知機能の障害などがある。以下、嚥下筋のサルコペニアについて解説する。

サルコペニアとは、狭義では加齢に伴う筋肉量の低下、広義ではすべての原因による筋肉量・筋力の低下である。広義のサルコペニアの原因には、加齢、活動(廃用)、疾患(侵襲、悪液質、原疾患)、栄養(飢餓)がある。

高齢者では加齢に伴い嚥下筋のサルコペニアを認めることが増加する。急性増悪や肺炎で入院した場合、絶食となることが多いが、絶食によって嚥下筋の廃用性筋萎縮を認める。誤嚥性肺炎などの侵襲で、嚥下筋も含めた筋蛋白の異化が亢進する。悪液質はがんやCOPDなどで生じ、嚥下筋も含めた筋肉の喪失が特徴である。原疾患による筋萎縮には、多発性筋炎や筋萎縮性側索硬化症などがある。COPDで筋炎を認めるという仮説もある。飢餓では嚥下筋も含めた筋蛋白が異化する。

サルコペニアによる摂食・嚥下障害に対しては、これらの原因の有無を判断した上で、栄養管理と嚥下筋のレジスタンストレーニング(頭部挙上訓練、舌筋力強化訓練)を適切に行うことが重要である。

加齢と廃用が原因の場合、栄養障害を認めなければ主な治療は嚥下筋のレジスタンストレーニングである。栄養障害を合併している場合には、適切な栄養管理を併用する。疾患が原因の場合、原疾患の治療が最も重要である。高度侵襲下では、適切な栄養管理とリハを行っても摂食・嚥下機能の改善は難しい。悪液質の場合、廃用予防の機能訓練と適切な栄養管理を同時に行い、エイコサペンタエン酸の投与を検討する。飢餓が原因の場合、主な治療はリハではなく栄養改善である。栄養改善なしにレジスタンストレーニングを行うとかえって摂食・嚥下障害は悪化する。

COPDによる摂食・嚥下障害では、リハと栄養管理を併用するリハ栄養ケアプランで、リハ単独の場合よりも摂食・嚥下機能の改善を期待できる。「栄養ケアなくしてリハなし。」「リハにとって栄養はバイタルサインである。」

2011年1月20日木曜日

サルコペニアのお話

「サルコペニアのお話」というHPを見つけました。

http://sarcopenia.jimdo.com/

この中の、「サルコペニアに関する5つの質問」のページはサルコペニアをわかりやすく解説していると感じましたので紹介させていただきます。

Q1.そもそもサルコペニアって何?
Q2.サルコペニアって、感染するの?
Q3.サルコペニアになると、何がいけないの?
Q4.サルコペニアって、治るの?
Q5.今のうちから気を付けたらいいことってある?

金沢西地域セミナー

風邪をひいて今日はすっかり声が出なくなりました…。今日案内するセミナーまでには回復すると思いますが、声が出ないと仕事になりません。

2月26日に金沢でリハ栄養の講演をさせていただきます。お近くの方はよかったらご参加ください。

金沢西地域セミナー

「テーマ:NST加算、リハビリテーション栄養」

日時:2011年2月26日(土)13時50分~16時05分
場所:医療法人社団博友会 金沢西病院・研修ホール

【特別講演1】 14:15-15:00 座長 金沢西病院 看護部長 細川 久美子先生
『当院におけるNST加算への取り組み(現状と今後の展望)』
公立能登総合病院 薬剤部(NST専門療法士) 杉田 尚寛 先生 

【特別講演2】 15:05-16:05 座長 金沢西病院 外科医長 菊地 勤 先生
『リハビリテーションと臨床栄養‐栄養ケアがリハを変える』
横浜市立大学附属 市民総合医療センター
リハビリテーション科 助教 若林 秀隆 先生

共催 :金沢西病院 アボットジャパン株式会社 ニュートリー株式会社
後援 :金沢市医師会

2011年1月19日水曜日

廃用性筋萎縮における蛋白合成・分解の変化


人の骨格筋の廃用性筋萎縮における蛋白合成・分解の変化に関するレビュー論文を紹介します。

S. M. Phillips, E. I. Glover, and M. J. Rennie: Alterations of protein turnover underlying disuse atrophy in human skeletal muscle. Journal of Applied Physiology September 2009 vol. 107 no. 3 645-654 doi: 10.​1152/​japplphysiol.​00452.​2009

下記HPで全文を見ることができます。

http://jap.physiology.org/content/107/3/645.full.pdf+html

廃用性筋萎縮では、蛋白分解が亢進しているか、蛋白合成が低下している、これらの両方かによって、筋肉量が減少します。図Aは正常で蛋白合成(MPS)と分解(MPB)のバランスが取れています。図Bは蛋白分解が亢進した結果、筋蛋白量が減少する模式図です。図Cは蛋白合成が減少した結果、筋蛋白量が減少する模式図です。

このレビュー論文ですが、廃用性筋萎縮における主な原因は蛋白合成の低下であり、図Cに近いのではないかと提言しています。蛋白分解のほうが優勢になるが、蛋白分解がそれほど亢進するのではないという仮説です。

それでは廃用性筋萎縮の予防にレジスタンストレーニングを行えばよいかとなると、栄養状態の考慮が必要です。

「蛋白質を摂取せずに運動だけを行った場合、蛋白質合成は増大するが蛋白質分解も増大し、筋レジスタンス運動で蛋白質が消費されると、蛋白質のネットバランスが負となり、蛋白同化状態ではなく異化状態となる」そうです(「栄養と運動医科学」p108より引用)。

一方、栄養状態が悪いもしくは栄養管理が不適切な場合に、全く機能訓練を行わないで廃用性筋萎縮が進行することをただ見ているのも、ベストの選択肢とは思えません。最適な負荷量は不明ですが、拘縮予防のためのROM訓練や、ADL悪化予防のためのADL訓練(低負荷)は実施したほうがよいと考えます。機能維持を目標とした機能訓練の適応はありますので、安易にリハを中止するのはどうかと思います。

また、臨床現場の廃用症候群患者の筋萎縮(広義のサルコペニア)は、単なる廃用性筋萎縮ではなく、廃用の原因となった疾患(侵襲や悪液質を伴うもの)による要素を合併していることが多いです。侵襲や悪液質では蛋白分解が亢進します。

廃用による蛋白合成の低下(仮説)と侵襲や悪液質による蛋白分解の亢進が合併し、さらに不適切な栄養管理(飢餓)や加齢によるサルコペニア(狭義のサルコペニア)も合併すれば、筋萎縮が著明となることは明らかです。この場合、廃用予防の機能訓練だけでは改善は望めず、原疾患の治療と栄養管理の併用が必須です。

Abstract
Unloading-induced atrophy is a relatively uncomplicated form of muscle loss, dependent almost solely on the loss of mechanical input, whereas in disease states associated with inflammation (cancer cachexia, AIDS, burns, sepsis, and uremia), there is a procatabolic hormonal and cytokine environment. It is therefore predictable that muscle loss mainly due to disuse alone would be governed by mechanisms somewhat differently from those in inflammatory states. We suggest that in vivo measurements made in human subjects using arterial-venous balance, tracer dilution, and tracer incorporation are dynamic and thus robust by comparison with static measurements of mRNA abundance and protein expression and/or phosphorylation in human muscle. In addition, measurements made with cultured cells or in animal models, all of which have often been used to infer alterations of protein turnover, appear to be different from results obtained in immobilized human muscle in vivo. In vivo measurements of human muscle protein turnover in disuse show that the primary variable that changes facilitating the loss of muscle mass is protein synthesis, which is reduced in both the postabsorptive and postprandial states; muscle proteolysis itself appears not to be elevated. The depressed postprandial protein synthetic response (a phenomenon we term “anabolic resistance”) may even be accompanied by a diminished suppression of proteolysis. We therefore propose that most of the loss of muscle mass during disuse atrophy can be accounted for by a depression in the rate of protein synthesis. Thus the normal diurnal fasted-to-fed cycle of protein balance is disrupted and, by default, proteolysis becomes dominant but is not enhanced.

2011年1月18日火曜日

EPCRCのがん悪液質レビュー論文

EPCRCのがん悪液質レビュー論文を紹介します。

Blum D, Omlin A, Baracos VE, Solheim TS, Tan BH, Stone P, Kaasa S, Fearon K, Strasser F; European Palliative Care Research Collaborative. Cancer cachexia: A systematic literature review of items and domains associated with involuntary weight loss in cancer. Crit Rev Oncol Hematol. 2011 Jan 7. [Epub ahead of print]

EPCRCはEuropean Palliative Care Research Collaborativeの略です。ESPENの主要メンバーが参加しているそうですので、EPCRCの論文は読む価値ありと判断しています。

抄録だけ見ても実はそれほど参考にならないのですが、本文は30ページあるのでこれからゆっくり読みたいと思います。1項目だけで悪液質の有無を鑑別することは難しいようです。前悪液質の診断基準でも6カ月で5%以上の体重減少、全身炎症反応、食思不振の3項目と悪液質となる原疾患の存在が含まれていますので、この程度の項目数は悪液質の診断に必要だろうと思います。

食思不振や栄養摂取量減少と体重減少との関連が弱いというのは意外な気がしました。体重減少にはむしろ全身炎症による異化亢進の影響のほうが大きいのかもしれません。

悪液質と筋肉量、筋力に関する論文や、悪液質の身体機能、精神機能への影響に関する論文はあまりないそうです。このあたりが一番、リハ栄養に関連してくるところだと思うのですがこれからのようです。

Abstract
BACKGROUND: The concept of cancer-related anorexia/cachexia is evolving as its mechanisms are better understood. To support consensus processes towards an updated definition and classification system, we systematically reviewed the literature for items and domains associated with involuntary weight loss in cancer.

METHODS: Two search strings (cachexia, cancer) explored five databases from 1976 to 2007. Citations, abstracts and papers were included if they were original work, in English/German language, and explored an item to distinguish advanced cancer patients with variable degrees of involuntary weight loss. The items were grouped into the 5 domains proposed by formal expert meetings.

RESULTS: : Of 14,344 citations, 1275 abstracts and 585 papers reviewed, 71 papers were included (6325 patients; 40-50% gastrointestinal, 10-20% lung cancer). No single domain or item could consistently distinguish cancer patients with or without weight loss or having various degrees of weight loss. Anorexia and decreased nutritional intake were unexpectedly weakly related with weight loss. Explanations for this could be the imprecise measurement methods for nutritional intake, symptom interactions, and the importance of systemic inflammation as a catabolic drive. Data on muscle mass and strength is scarce and the impact of cachexia on physical and psychosocial function has not been widely assessed.

CONCLUSIONS: Current data support a modular concept of cancer cachexia with a variable combination of reduced nutritional intake and catabolic/hyper-metabolic changes. The heterogeneity in the literature revealed by this review underlines the importance of an agreed definition and classification of cancer cachexia.

慢性心不全に対する筋トレの効果

慢性心不全に対する筋トレの効果をみた論文を紹介します。

Effect of Resistance Training on Physical Disability in Chronic Heart Failure. Medicine & Science in Sports & Exercise: POST ACCEPTANCE, 12 January 2011 doi: 10.1249/MSS.0b013e31820eeea1

18週間のレジスタンストレーニングを慢性心不全患者に実施したことで、身体機能と筋力が実施前と比較して有意に改善したという論文です。

慢性心不全患者の対象群(レジスタンストレーニング以外の何らかの介入など)が設定されていませんので、これで即有効と判断するわけには全くいきません。ただ、慢性心不全患者に対する運動療法として、有酸素運動だけでなくレジスタンストレーニングも選択肢の1つにはなると思います。もちろん有酸素運動を優先しますが。

また、慢性心不全による悪液質が存在しても、重症悪液質(ターミナル)ではなく適切な栄養管理がされていれば、軽度のレジスタンストレーニングを行ってもよいかもしれません。

Abstract

Purpose: Patients with chronic heart failure (CHF) report difficulty performing activities of daily living. To our knowledge, however, no study has directly measured performance in activities of daily living in these patients to systematically assess their level of physical disability. Moreover, the contribution of skeletal muscle weakness to physical disability in CHF remains unclear. Thus, we measured performance in activities of daily living in CHF patients and controls, its relationship to aerobic capacity and muscle strength and the effect of resistance exercise training to improve muscle strength and physical disability.

Methods: Patients and controls were assessed for performance in activities of daily living, self-reported physical function, peak aerobic capacity, body composition and muscle strength before and after an 18-wk resistance training program. To remove the confounding effects of several disease-related factors (muscle disuse, hospitalization, acute illness), we recruited controls with similar activity levels as CHF patients and tested patients >6 months following any disease exacerbation/hospitalization.

Results: Performance in activities of daily living was 30% lower (P<0.05) in CHF patients versus controls and was related to both reduced aerobic capacity (P<0.001) and muscle strength (P<0.01). Moreover, resistance training improved (P<0.05 to <0.001) physical function and muscle strength in patients and controls similarly, without altering aerobic capacity.

Conclusion: CHF patients are characterized by marked physical disability compared to age- and physical activity-matched controls, which is related to reduced aerobic capacity and muscle strength. CHF patients respond to resistance training with normal strength/functional adaptations. Our results support muscle weakness as a determinant of physical disability in CHF and show that interventions that increase muscle strength (resistance training) reduce physical disability.

栄養と運動医科学

ネスレ栄養科学会議監修、森谷敏夫・伏木亨・樋口満・リチャードギャノン・永井成美共著「栄養と運動医科学」建帛社を紹介します。

http://www.kenpakusha.co.jp/np/isbn/9784767961491

この書籍は、2009年5月21日の日本栄養・食糧学会におけるネスレ栄養科学会議主催のシンポジウム「栄養と運動医科学」を元にした書籍です。

リハ栄養の記載はありませんが、運動栄養・スポーツ栄養の学習になります。特に第1章、第3章、第4章が参考になるかと思います。

内容的にはかなり学術的でやさしい書籍とは言えませんので、すでに運動栄養やリハ栄養の基本的な知識を十分持っている医療職の方におすすめします。この書籍を読んでそこから引用されている文献を読んでいくとよいと思います。

目次
第1章 生活習慣病における運動と栄養の役割
第2章 運動時のエネルギー代謝変化と脳内TGF-β
第3章 スポーツ栄養
第4章 生涯を通じてのパフォーマンス:栄養と運動の相乗効果―身体能力を最適化するための栄養面でのアプローチ
第5章 若年女性のやせ志向と栄養生理学的課題

2011年1月17日月曜日

第5回リハ科専門医会学会のときの写真




もう2ヶ月前の話になりますが、2010年11月20日の第5回リハ科専門医会学会でリハ栄養の講演をした時の写真をいただきましたので、2枚だけアップしておきます。

理学療法学教育への共用試験導入に向けて

週刊医学界新聞の最新号:第2912号 2011年01月17日に「理学療法学教育への共用試験導入に向けて」の記事が掲載されています。

http://www.igaku-shoin.co.jp/paperDetail.do?id=PA02912_04

以下、上記記事からの引用です。

「理学療法士育成の教育基盤となる,臨床実習前の到達度確認試験の開発と普及プロジェクト」(文科省「産学連携による実践型人材育成事業――専門人材の基盤的教育推進プログラム」受託事業)の一環として開催された。これは,知識確認テストとOSCE(客観的臨床能力試験)から成る共用試験のプロトタイプ開発を行い,臨床実習に必要な学習目標達成の標準化をめざすもの。

→知識確認テストとOSCEを組み合わせた到達度確認試験に関しては、異論はありません。単なるペーパーテストに比べればより意義があります。テクニカルスキルはもちろんですが、コミュニケーションスキルもしっかり評価するOSCEにしてほしいと思います。対患者・家族はもちろん、多職種とのコミュニケーション(バーバル、ノンバーバルとも)が最低限できなければ、全く仕事になりませんし。

また、以下のような記載もありました。引用です。

学外臨床実習が拡充される傾向にある一方,実習カリキュラムが卒後の臨床現場に即していない現状が確認された。

→確かに実習カリキュラムが卒後の臨床現場に即していないと思います。それに実習以外のカリキュラムもどれだけ卒後の臨床現場に即しているのか…という疑問があります。大半のPTが臨床現場に出る現状を考えると要改善です。

リハ栄養の立場でいえば、卒後の臨床現場では、栄養障害を有する障害者に理学療法を実施する機会は極めて多いのに、栄養のことを全く卒前で学習していません。その結果、機能維持が目標となるような低栄養の患者に1日2-3時間の機能訓練を行い、PTが栄養悪化の原因になっていることも散見されます。卒前教育に栄養教育を含めてほしいと思います。

2011年1月16日日曜日

第7回出雲地区NSTフォーラム


今日は日本病態栄養学会で、摂食・嚥下障害の最新栄養管理のシンポジウムで発表してきました。書籍コーナーに「リハ栄養ハンドブック」が平積みになっていたのはとてもありがたかったですが、売れ行きはいまいちだった気がします…。リハにおける栄養の重要性を訴え続けないとなあと改めて感じました。

1月28日(金)に島根県立中央病院で、第7回出雲地区NSTフォーラムが開催されます。私はリハ栄養と地域NSTの話をしてきます。お近くの方はぜひご参加ください。

第7回出雲地区NSTフォーラム
第2回中央病院地域リハビリテーション研修会

日時:2011年1月28日(金) 17:15~
会場:島根県立中央病院大研修室
参加費:無料(申し込み不要)
対象:医師・看護師・栄養士・リハ療法士・MSW
栄養サポートにかかわる医療従事者

プログラム

17:30~
●座長:島根県立中央病院医療局次長今岡友紀先生
報告1:NST活動報告 薬剤科薬剤師 頼光翔
報告2:胃瘻チーム活動報告 摂食・嚥下障害看護認定看護師 馬庭祐子
報告3:摂食・嚥下チーム活動報告 リハ技術科言語聴覚士 坪内孝衣

18:00~
●座長:島根県立中央病院リハ科部長永田智子先生
特別講演:「リハビリテーション栄養と地域一体型NST」
横浜市立大学附属市民総合医療センター
リハビリテーション科医師若林秀隆先生

世話人:島根県立中央病院
NST栄養サポートチーム
委員長今岡友紀
問い合わせ:
spch.nst@gmail.com
電話0853-22-5111
Fax 0853-21-2975

2011年1月15日土曜日

青森県地域リハ支援センター研修会


「リハ栄養について考える」というテーマで、平成22年度青森県高齢者等地域リハ支援センター研修会が2月12日に開催されます。リハ栄養をテーマに取り上げてくださり、とても嬉しいです。このようなリハ栄養の研修会を各地で開催できると、とてもありがたいですね。

平成23年2月12日(土)13時~ アウガ5階男女共同参画プラザ カダール AV多機能ホール

特別講演 
リハビリテーションと臨床栄養~栄養ケアがリハを変える
横浜市立大学附属市民総合医療センターリハビリテーション科 若林秀隆先生

調査報告
リハビリにおける栄養の関わりについて-若林先生の講演を聴いて、その後-
健生病院 栄養科NST担当 野呂美奈子先生他

一般病院に入院しているリハビリ患者の栄養ケアの実情について
三戸中央病院 理学療法士 高山雪恵先生他

回復期病棟に入院しているリハビリ患者の栄養ケアの実情について
黎明郷リハビリテーション病院 理学療法士 斎藤拓也先生他

調査報告でPTが栄養の演題発表を2つすることも素晴らしいと思います。お近くの方はぜひご参加ください。よろしくお願いいたします。

2011年1月14日金曜日

胃ろうでも家庭の食事

今日の朝日新聞神奈川県版に、【生きる・支える】胃ろうでも家庭の食事、という記事が掲載されています。私も少しコメントさせていただきました。

http://mytown.asahi.com/kanagawa/news.php?k_id=15000151101140001

経管栄養というと既成の栄養剤を使用することがどうしても多くなります。もちろん既成の栄養剤も以前よりは優れたものが増えてきていますが、このような選択肢もあってよいと思います。

経口摂取なら栄養剤より食事のほうがQOLが高いのは当然です。いろんな面での介護負担の考慮は必要ですが、経管栄養でも栄養剤より食事のほうがQOLが高い場合はあると思います。

特に日によって経口での食事摂取量が大きく異なる方の場合、可能な範囲で経口摂取して残りは胃ろうから投与するという方法が、QOLを考慮すると望ましいかもしれません。

2011年1月13日木曜日

Holland-Frei Cancer Medicine, 5th edition

Holland-Frei Cancer Medicine, 5th editionの全文を下記のHPから見ることができます。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK20777/

2003年に第6版が出ていて、そちらは目次しか見れませんが、2000年の第5版は全文見れます。

リハ栄養に関連するところとしては、Principles of Cancer Rehabilitation MedicineやAnorexia and Cachexiaがあります。膨大な情報量なので一度に全部は見れませんが、このあたりは読んでおこうと思っています。HPで見たい章だけ全文見れるのは、とてもありがたいことです。

Chapter 71. Principles of Cancer Rehabilitation Medicine

Application of Rehabilitation Concepts
The Cancer Rehabilitation and Adaptation Team
Functional Assessment
The Rehabilitation Process
Cancer of the Brain
Cancer of the Spine
Cancer of the Head and Neck
Cancer of the Lung
Cancer of the Breast
Cancer of the Gastrointestinal Tract
Cancer of the Genitourinary System
Cancer of the Limbs
Conclusion

Chapter 141. Anorexia and Cachexia

Introduction and Historical Perspective
Incidence
Etiology
Manifestations of Cachexia
Treatment of Cachexia

non exercise activity thermogenesis(NEAT)の総説


今日はnon exercise activity thermogenesis(NEAT、非運動性熱産生)の総説論文を紹介します。

Levine JA: Nonexercise activity thermogenesis – liberating the life-force. J Intern Med 2007; 262: 273–287

NEATとは、基礎代謝、食事誘発性熱産生、運動以外によるエネルギー消費です。運動以外の日中の生活スタイルによって、エネルギー消費量は少なからず異なってきます。NEATを増やせば特別な運動をしなくても肥満、糖尿病を予防できる可能性があるという仮説もあります。

図aでは活動による熱産生のうち、運動よりも非運動性のもののほうが多いことが示されています。図bでは、座位で生活している人と、農業のような力仕事をしている人とでは、NEATが最大1日2000kcal異なる可能性があることが示されています。

この総説論文では以下の5つの点について記載されています。

1 NEAT varies by 2000 kcal day)1.
2 NEAT is important in human fat gain and obesity.
3 NEAT is underpinned by a profound and subtle biology.
4 NEAT is central in the genesis of the obesity epidemic.
5 NEAT-enhanced living is achievable.

肥満、糖尿病、減量対策として、運動以外にNEATを増やすことが重要になります。リハ栄養的にも、リハや運動療法の時間を確保するのはもちろんですが、それ以外の時間の過ごし方が減量には重要といえます。入院患者で、訓練時間以外は1日中ベッドで横になっているようでは、減量は期待しにくいと考えます。

一方、低栄養患者の場合には、逆にNEATを少なくすることが適当な場合があります。NSTで1日エネルギー必要量を計算して十分投与しているはずなのに栄養状態が改善してこない場合、その原因の1つにNEATが多い可能性があります(侵襲、悪液質の考慮も必須です)。

この場合、日中の過ごし方を確認するとよいかもしれません。リハ以外にも1日中動き回っていてNEATで栄養改善を認めないと思われる場合には、さらにエネルギー投与量を増やすことが必要でしょう。動かないようにしてもらうのは好ましくないと思います。

日本語でNEATの参考になりそうなHPを少し紹介しておきます。

目指せ肥満解消!-日常の活動で積極的カロリー消費のススメ-
http://www.wellnesslink.jp/p/column/moritani_01_01.html

人はなぜ、太るのか?ほぼ日刊イトイ新聞
http://www.1101.com/takahashi_michio/2010-10-14.html

メタボ時代のための健康食生活 森谷敏夫先生スライド
http://morichan.jinkan.kyoto-u.ac.jp/general/08curry.pdf

Abstract
Obesity occurs when energy intake exceeds energy
expenditure over a protracted period of time. The
energy expenditure associated with everyday activity
is called NEAT (Nonexercise activity thermogenesis).
NEAT varies between two people of similar size by
2000 kcal day)1 because of people’s different occupations
and leisure-time activities. Data support the
central hypothesis that NEAT is pivotal in the regulation
of human energy expenditure and body weight
regulation and that NEAT is important for understanding
the cause and effective treatment for obesity.

2011年1月12日水曜日

PT・OT・ST・DHのNST専門療法士の集まりin名古屋

名古屋のJSPEN・日本静脈経腸栄養学会の時にPT・OT・ST・DHのNST専門療法士と今年の受験予定者で集まる企画を考えていましたが、二次会の企画が確定しました。ちなみに一次会に関しては、学会の正式プログラムである2月17日19時~の学会懇親会の時に集まります。

2月17日21時~、山ちゃん金山西店。
http://www.yamachan.co.jp/shop/shop_detail.php?name=kanayamanishi

PT・OT・ST・DHのNST専門療法士と今年受験予定で参加希望の方は、予約と連絡の関係がありますので、1月16日までに氏名、所属、職種、メールアドレスをメールで私宛に連絡していただけますでしょうか。よろしくお願い申し上げます。

以前、PT・OT・ST・DHのNST専門療法士と受験予定の方で集まる企画をつぶやいた時に連絡してくださった方も何人かいらっしゃいます。参加可能な場合にはお手数をおかけしますが、私宛に氏名、所属、職種、メールアドレスを改めて連絡してください。よろしくお願い申し上げます。

乳がん後のリンパ浮腫に対する筋トレ

乳がん後のリンパ浮腫に対する筋トレの効果をみた論文を紹介します。

Kim DS, Sim Y-J, Jeong HJ, Kim GC. Effect of active resistive exercise on breast cancer–related lymphedema: a randomized controlled trial. Arch Phys Med Rehabil 2010;91:1844-8.

両群とも複合的理学療法を実施し、介入群ではその後にさらに上肢の筋トレを1日15分、週5回、8週間実施したというRCTです。

結果ですが、介入群で上腕体積が対照群より統計学的に有意に低くなり、SF-36の8項目のうち、身体の健康(physical health)と全般的健康感(general health)の2項目は介入群で対照群より統計学的に有意に改善しました。ただし、前腕やSF-36の他の6項目には統計学的有意差を認めませんでした。

下肢の複合的理学療法では十分に歩行することができますが、上肢の複合的理学療法では歩行に見合うような十分な上肢運動はないので、筋トレを追加することでさらなる効果を期待できる可能性があります。栄養状態が良好(少なくとも低栄養ではない)で栄養管理も適切であれば、複合的理学療法の中に筋トレを追加してもよいのかもしれません。順番としてはリンパドレナージ、圧迫療法のほうがもちろん優先ですが。

また、低栄養や栄養管理が不適切の場合には、筋トレを追加することは不適切だと考えます。筋トレより栄養改善が優先されます。

Abstract

Objective
To investigate the differences between the effects of complex decongestive physiotherapy with and without active resistive exercise for the treatment of patients with breast cancer–related lymphedema (BCRL).

Design
Randomized control-group study.

Setting
An outpatient rehabilitation clinic.

Participants
Patients (N=40) with diagnosed BCRL.

Interventions
Patients were randomly assigned to either the active resistive exercise group or the nonactive resistive exercise group. In the active resistive exercise group, after complex decongestive physiotherapy, active resistive exercise was performed for 15min/d, 5 days a week for 8 weeks. The nonactive resistive exercise group performed only complex decongestive physiotherapy.

Main Outcome Measures
The circumferences of the upper limbs (proximal, distal, and total) for the volume changes, and the Short Form-36 version 2 questionnaire for the quality of life (QOL) at pretreatment and 8 weeks posttreatment for each patient.

Results
The volume of the proximal part of the arm was significantly more reduced in the active resistive exercise group than that of the nonactive resistive exercise group (P<.05). In the active resistive exercise group, there was significantly more improvement in physical health and general health, as compared with that of the nonactive resistive exercise group (P<.05).

Conclusions
For the treatment of patients with BCRL, active resistive exercise with complex decongestive physiotherapy did not cause additional swelling, and it significantly reduced proximal arm volume and helped improve QOL.

2011年1月11日火曜日

のめり込む力

今日は、川上真史著「のめり込む力 楽しみながら仕事の成果をあげる7つのルール」ダイヤモンド社を紹介します。

http://book.diamond.co.jp/cgi-bin/d3olp114cg?isbn=978-4-478-00685-6

アマゾンでは中古書もあるようです。

仕事にのめり込むというと仕事中毒を勧めているのかと勘違いされる方もいるかもしれませんが、ルール7に「仕事と生活のバランスを快適に保とう!」とワークライフバランスのことがありますので、そんなことはありません。「のめり込むように仕事ができてこそ、仕事もプライベートも充実し、幸せにつながる」ことを推奨しています。

7つのルールは以下のようになります。

ルール1 仕事のやりがいは自分で見つけよう!
ルール2 「正当パワー」で仕事をしよう!
ルール3 ストレスは元から解決しよう!
ルール4 仕事のプロセスに面白さを見出そう!
ルール5 シナジーを生み出そう!
ルール6 コミュニケーション力を鍛えよう!
ルール7 仕事と生活のバランスを快適に保とう!

これらはビジネスパーソンだけでなく、医療人にも数多く当てはまると思います。やりがい(精神的な満足感)を自分で見つけるのは当然だと私は思いますが、二昔ほど前の方たちは収入や地位がやりがいになっていたようです。今でもこれらがやりがいという医療人もチラホラ見かけますが…。

パワーには報酬、準拠、専門、強制、正当の5つがあると述べられています。医療人は専門パワー(一部の医師は強制パワーかもしれません…)で仕事をすることが多いと思います。医療人の場合、専門パワーは当然必要ですが、それに加えて正当パワー(誰もが納得する正当性がある)も大切です。専門パワーと正当パワーは一致しないことを意識することが有用だと思います。

ストレスには「ストレッサー(ストレスの原因)」と「ストレス反応(ストレスの結果)」があり、対症療法(ストレス反応の解消)よりもストレッサーの解消の重要性を述べています。全く同感ですが、医療人の場合、元の原因であるストレッサーを避けようがないことも少なくない気がします。環境的にどうしようもない場合には、職場を変えざるをえないと思います。

ビジネスパーソンの場合、「ITは若手から簡単な仕事を奪った」「いきなり成果を求められる新入社員」ということも興味深いです。仕事の難易度が以前より格段に高くなっているそうです。時代の進歩を考えれば当然という面もありますが、これは医療人にも当てはまるのかもしれません。

デキの悪い新人、何年たっても一人前にならない医療人、いつまでたっても自信を持てない医療人が少なからずいる(と私が感じる)背景には、私が新人の頃より求められるレベルが、専門知識・技能面でもFD面でも。格段に高いことがあるかもしれません。安易に「俺が若かったころは…」と説教しないほうがよいかも…。

シナジー、コミュニケーションの重要性は、多職種でのチーム医療がますます重要となっている医療人に、そのまま当てはまります。医科と歯科を含めた多職種チーム医療=ダイバーシティマネジメントです。自分の専門職以外の職種の表と裏の事情を知ることで、シナジーやコミュニケーション能力が改善すると思います。

ルール7の最後に「新しい取り組みをはじめてみよう」とあります。私は昨日、一昨日と魁!!五島塾☆に参加していたのでブログをアップできませんでしたが、これなども新しい取り組みだと思います。

http://www004.upp.so-net.ne.jp/GOTOH-Dental/gotojuku.htm

多くの方に「リハ栄養」という新しい取り組みをはじめていただけると嬉しいです(笑)。

目次

はじめに

ルール1 仕事のやりがいは自分で見つけよう!

上司や会社が「わかってくれない」理由
「働く動機」は大きく変わった
「職能資格制度」と「成果主義」の本当の目的
「欠乏動機」が消えた後で
従来の仕事には「三つのパラダイム」があった
「優秀な社員」ばかりの会社は危険
成果主義の誤った使われ方
「外的報酬」から「内的報酬」へ
「内的報酬」は自らつくり出すべきもの
「内的報酬」は仕事をしながら見つけるもの
「内的報酬」を求めるには「正当さ」が必要

ルール1のポイント 心底楽しみながら仕事をするには?

ルール2 「正当パワー」で仕事をしよう!

人間が発揮する五つのソーシャルパワー
仕事の基本は「正当パワー」
感情的に反発する部下に正当性はない
「不当な上司」の基準とは?
不当な上司が「精神効率」を悪くする
上司の言う通りに働く人は「優秀」ではない
自社の利益だけを追求する「不当な組織」
日本企業のグローバル化には正当性がない
本質的に正しいことは、どんどん提案しよう
面接でも「正当」パワーを貫くべし
自分の実像を知ろう
「できます」がコンピテンシーの基本
コンピテンシーの五つの段階
コンピテンシーの高い人の特徴とは?

ルール2のポイント 「正しい仕事」をするために必要なパワーとは?

ルール3 ストレスは元から解決しよう!

「ストレッサー」と「ストレス反応」
増えているのは「うつ病」ではなく、「うつ状態」の社員
対症療法よりストレッサーの解消を
ストレス反応の四つの段階
成果主義がストレスの原因ではなかった
難易度の高い仕事、低い仕事
ITは若手から簡単な仕事を奪った
いきなり成果を求められる新入社員
「顧客の要求の高度化」が中堅社員を苦しめる
つまらない仕事を、もっとつまらなくさせる上司
ストレスは、耐えれば耐えるほど辛くなる
「消極的コーピング」の二つのパターン
問題解決コーピングと支援獲得コーピング
顧客に支援を求めれば解決が早い
問題は、初期の段階で解決しよう
状況変容型のコンピテンシーを持とう

ルール3のポイント ストレス問題はどう解決する?

ルール4 仕事のプロセスに面白さを見出そう!

仕事にのめり込むということ
「テーマ」ではなく、「プロセス」を大切にしよう
「活力」「献身」「熱中」がエンゲージメントの要素
エンゲージメントのメリット
自分が生み出している成果を感じ取ろう
問題点よりも成果を見よう
自分から楽しもう
目標設定力を身につけよう
仕事の「意味」を考えよう
不当な上司の言うことは聞き流そう
仕事に笑いを組み込もう
質の高い「楽しさ」を目指そう
「判断」にはレベルがある
評論家社員になるな

ルール4のポイント 仕事を面白く感じて、のめり込むためには?

ルール5 シナジーを生み出そう!

「協調性」と「シナジー」はまったく別もの
「シナジー」の二つのレベル
「自尊感情」の高さがシナジーを生む
事実ベースで自己イメージを持つ
共感性を高めよう
共感性を高める力
シナジーが喜びにつながる

ルール5のポイント 人とシナジー(相乗効果)を生むためには?

ルール6 コミュニケーション力を鍛えよう!

ダイバーシティにどう対応するか
コンテクスト寄りの日本人の会話
拡大する世代間ギャップ
ツールの違いがズレを生む
「何か」という言葉は使わない
「好き嫌い」と「良い悪い」を切り分けて捉えよう
グローバル化に乗り遅れた日本
国内の社員にも求められるグローバル化
グローバル・コミュニケーションの五つの要素
英語力は無駄になる?
日本人は人間関係をつくるのが下手

ルール6のポイント グローバル化の時代に、コミュニケーション能力を高めるには?

ルール7 仕事と生活のバランスを快適に保とう!

ワークライフバランスは「時短」ではない
仕事が充実しないと、プライベートも充実しない
「二四時間単位」で計画を立てない
目標は「成果イメージ」で設定しよう
一番大切な指標(KPI)を考えよう
目標は自分で設定するもの
仕事に複数のパターンを持とう
新しい取り組みをはじめてみよう

ルール7のポイント ワークライフバランスを保つには?

おわりに

2011年1月8日土曜日

がんの症状管理(食思不振)

がんの症状管理に関するレビュー論文を紹介します。

LAURA K. SHOEMAKER, BASSAM ESTFAN, RAGHAVA INDURU, T. DECLAN WALSH. Symptom management: An important part of cancer care. doi: 10.3949/ccjm.78a.10053 Cleveland Clinic Journal of Medicine January 2011 vol. 78 1 25-34

下記のHPで全文見れます。

http://ccjm.org/content/78/1/25.full#sec-6

この中で食思不振に関する部分だけ紹介します。食思不振は進行がん患者の約66%に認めます。その他、吐き気60%、口腔乾燥57%、便秘52%、早期満腹感51%、嘔吐30%と食事に関する症状はよく認めます。これらの症状の一部は治療で改善することができるので、症状管理が重要となります。

食思不振のうち、改善できる要因として、胃炎、便秘、コントロール不十分の著明な痛みや呼吸困難、せん妄、吐き気・嘔吐、うつ、Gastroparesis(消化管運動障害)があります。これらが食思不振の原因となっている場合には、診断・治療が重要となります。特にうつの合併は少なくないと思います。

栄養指導(経口摂取の範囲で)、運動指導(低負荷の範囲で。食思が運動で改善すればベスト)はもちろん行います。ただ、経管栄養、経静脈栄養に関してはターミナルの場合、基本的に推奨されていません。消化管閉塞や短腸症候群などの場合は別ですが。

また、薬物療法としてステロイドが紹介されています(他に酢酸メゲステロールと治療用大麻も紹介されていますが、日本での使用は困難だと思います)。食思不振の患者に少量ステロイドを試す価値は十分あると私は思いますが、3-5日で効果がみられない場合には中止すべきとあります。

進行がんや慢性臓器不全の患者に食思不振があると「仕方ない」と考えがちですが、食思不振の原因をよく考えて、改善できるものは、薬物療法(ステロイドやEPAなど)改善を目指すアプローチがリハ栄養では重要だと思います。

Abstract
Physicians can do a better job of palliating symptoms and improving the quality of life of cancer patients if they understand the principles of symptom management. We review the general principles of symptom management for fatigue, anorexia, constipation, dyspnea, nausea, and vomiting.

Key points
Patients with advanced cancer typically suffer from multiple concurrent symptoms, which they rate as moderate or severe.

The principles of symptom management include taking an aggressive detailed approach, prioritizing, and identifying symptom pathophysiology.

Prescribed regimens should be specific and simple; physicians should consider the patient’s age and fragility, the cost of the treatment, and anticipated drug side effects.

To ensure optimal palliation with the fewest possible adverse effects, reassess frequently, make one change at a time, and use rescue doses.

2011年1月6日木曜日

慢性人工透析患者における透析時の経口摂取と筋トレの効果

慢性人工透析患者における透析時の経口摂取と筋トレの効果を見た論文を紹介します。

Jie Dong MD, Mary B. Sundell, Lara B. Pupim, Pingsheng Wu, Ayumi Shintani, and T. Alp Ikizler. The Effect of Resistance Exercise to Augment Long-term Benefits of Intradialytic Oral Nutritional Supplementation in Chronic Hemodialysis Patients. Journal of Renal Nutrition, Article in Press. doi:10.1053/j.jrn.2010.03.004

慢性人工透析患者を対象に、介入群では透析時の経口摂取+透析前のレッグプレス12回を3セット、対照群は透析時の経口摂取のみをそれぞれ6ヶ月間実施というランダム化比較試験です。

一次アウトカムは除脂肪体重(LBM)でみましたが、介入群と対照群で統計学的な有意差はありませんでした。二次アウトカム(筋力、栄養指標)にも統計学的有意差はありませんでした。

ただし、両群あわせると体重とレッグプレスの1RMは、介入前と介入後(3か月後、6か月後)で比較すると有意に改善していました。

透析時の経口摂取は体重増加と筋力増強に有用であるが、それに筋トレ(透析前のレッグプレス12回を3セット)を追加してもさらなる効果は認めないという結論です。

ただし、32人中22人しか6カ月間の介入ができなかったこと(脱落率が高い)、両群をあわせるというRCTではめったにやらない統計学的解析をしていることなどを考慮すると、質の低いRCTだと思います。筋トレの明らかな効果は認めませんでしたが、これで慢性人工透析患者に筋トレは不要とは言えないと考えます。

Abstract

Background
Resistance exercise combined with intradialytic oral nutrition (IDON) supplementation improves net protein balance in the acute setting in chronic hemodialysis patients. We hypothesized that combination of long-term resistance exercise and IDON would improve markers of muscle mass and strength further compared with IDON alone.

Methods
Thirty-two participants (21 male; mean age, 43 ± 13 years) on chronic hemodialysis were randomly assigned to IDON plus resistance exercise (NS + EX), or IDON (NS) alone for 6 months. IDON consisted of a lactose-free formula consisting of protein, carbohydrate, and fat. Three sets of 12 repetitions of leg-press were completed before each dialysis session in the NS + EX arm. Primary outcome measurement was lean body mass. Muscle strength and other nutritional parameters were measured as secondary outcomes.

Results
Of 32 participants, 22 completed the 6-month intervention. There were no statistically significant differences between the study interventions with respect to changes in lean body mass and body weight, when comparing NS + EX to NS. There were also no statistically significant differences in any of the secondary outcomes measured in the study. Body weight (80.3 ± 16.6 kg, 81.1 ± 17.5 kg, and 80.9 ± 18.2 kg at baseline, month 3, and month 6, respectively; P = .02) and 1-repetition maximum (468 ± 148 lb, 535 ± 144 lb, and 552 ± 142 lb, respectively; P = .001) increased statistically significantly during the study for all patients combined.

Conclusion
This study did not show further benefits of additional resistance exercise on long-term somatic protein accretion above and beyond nutritional supplementation alone. When both treatments groups were combined, body weight and muscle strength improved during the study.

2011年1月5日水曜日

筋トレによる筋肥大は炎症マーカーの減少と関連した

高齢女性において筋トレによる筋肥大は、炎症マーカーの減少と関連したという論文を紹介します。

Kishiko Ogawa,Kiyoshi Sanada,ShuichiMachida,Mitsuharu Okutsu,and Katsuhiko Suzuki. Resistance Exercise Training-Induced Muscle Hypertrophy Was Associated with Reduction of Inflammatory Markers in Elderly Women. Mediators of Inflammation Volume 2010, Article ID 171023, 7 pages doi:10.1155/2010/171023

以下のHPで全文PDFで見ることができます。

http://downloads.hindawi.com/journals/mi/2010/171023.pdf

21人のナーシングホームで生活している高齢女性(平均年齢85歳)を対象に、12週間の低負荷の筋トレを行い、その前後で炎症マーカーCRP、アミロイドA、heat shock protein (HSP)70、TNF-α、IL-1, IL-6, monocyte chemotactic protein (MCP-1)、insulin、insulin-like growth factor (IGF)-I、vascular endothelial growth factor (VEGF)を測定しました。

結果としてCRPやアミロイドAは統計学的に有意に低下し、CRPとTNF-αの減少は筋肥大と関連していました。 ただし、実数値で平均CRPを見ると筋トレ前0.244 ± 0.322mg/dl、筋トレ後0.146 ± 0.222mg/dlということで臨床的に有意かは微妙です。

それでも高齢者が筋トレを継続して行うことの意義は十分あると考えます。問題は日常生活で継続できるかどうかですが…。運動療法は中止すると効果がなくなってきますので。

Abstract
Aging is associated with low-grade inflammation. The benefits of regular exercise for the elderly are well established, whereas less is known about the impact of low-intensity resistance exercise on low-grade inflammation in the elderly. Twenty-one elderly women (mean age ± SD, 85.0 ± 4.5 years) participated in 12 weeks of resistance exercise training. Muscle thickness and circulating levels of C-reactive protein (CRP), serum amyloid A (SAA), heat shock protein (HSP)70, tumor necrosis factor (TNF)-α, interleukin (IL)-1, IL-6, monocyte chemotactic protein (MCP-1), insulin, insulin-like growth factor (IGF)-I, and vascular endothelial growth
factor (VEGF) were measured before and after the exercise training. Training reduced the circulating levels of CRP, SAA (P < .05), HSP70, IGF-I, and insulin (P < .01). The training-induced reductions in CRP and TNF-α were significantly (P < .01, P < .05) associated with increased muscle thickness (r = −0.61, r = −0.54), respectively. None of the results were significant after applying a Bonferroni correction. Resistance training may assist in maintaining or improving muscle volume and reducing
low-grade inflammation.

2011年1月4日火曜日

がんによる悪液質に対する最適な管理


がんによる悪液質に対する最適な管理に関するレビュー論文を紹介します。

Argilés JM, Olivan M, Busquets S, López-Soriano FJ. Optimal management of cancer anorexia-cachexia syndrome. Cancer Manag Res. 2010 Jan 22;2:27-38.

下記HPで全文無料で読むことができます。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3004581/?tool=pubmed

悪液質に対して、人である程度の有効性が報告されている治療法には、表に示すようにProgesterone derivatives(プロゲステロン誘導体)、Ghrelin(グレリン)、Anabolic steroids(タンパク同化ステロイド)、ω-3-fatty acids(ω-3脂肪酸)、EPO(エリスロポエチン)の5つがあります。

ただ、このうち日常臨床で気楽に使用できるのはω-3脂肪酸(EPA製剤、エパデール等。もしくはEPAを多く含んだプロシュアのような栄養剤)だけだと思います。NSTで前悪液質・悪液質の患者を見かけたら、ω-3脂肪酸の使用は提案してもよいと考えます。

また、栄養療法単独、薬物療法単独、運動療法単独では悪液質への治療効果は期待できないので、これらをすべて行う併用療法が望ましいといえます。運動療法といっても、軽度の有酸素運動やレジスタンストレーニング(もしくはストレッチ)に限定されると思いますが。

Abstract
According to a recent consensus, cachexia is a complex metabolic syndrome associated with underlying illness and characterized by loss of muscle with or without loss of fat mass. The prominent clinical feature of cachexia is weight loss. Cachexia occurs in the majority of cancer patients before death and it is responsible for the deaths of 22% of cancer patients. Although bodyweight is the most important endpoint of any cachexia treatment, body composition, physical performance and quality of life should be monitored. From the results presented here, one can speculate that a single therapy may not be completely successful in the treatment of cachexia. From this point of view, treatments involving different combinations are more likely to be successful. The objectives of any therapeutic combination are two-fold: an anticatabolic aim directed towards both fat and muscle catabolism and an anabolic objective leading to the synthesis of macromolecules such as contractile proteins.

心不全における膝伸展力の低下は不活動で説明できない

心不全患者における膝伸展力の低下は不活動で説明できないという論文を紹介します。

Toth MJ, Shaw AO, Miller MS, VanBuren P, LeWinter MM, Maughan DW, Ades PA. Reduced knee extensor function in heart failure is not explained by inactivity. Int J Cardiol. 2010 Sep 3;143(3):276-82.

慢性心不全患者では悪液質、サルコペニアも含めて骨格筋異常を認めるという報告は数多くあります。この論文では、年齢、性別をマッチさせた慢性心不全患者と健常高齢者11人ずつで、筋肉量と筋力を比較検討しました。

その結果、身長、体重、体脂肪率、身体活動量、筋肉量には両群で有意差は認めませんでしたが、膝伸展力は慢性心不全患者で有意に低いという結果でした。これより、筋力低下の原因は不活動によるものではなく、慢性心不全によるものではないかと提案しています。

健常者では筋力は筋断面積(つまり筋肉量)とかなり相関すると言われていますが、今回の結果は筋肉量が同じでも慢性心不全患者では筋力低下を認めることがあるという点が興味深いです。広義のサルコペニアを疑う場合にも、筋肉量だけでなく筋力も評価しておくべきだといえます。

ただ、身長、体重、体脂肪率、身体活動量が同じだけで、「心不全患者における膝伸展力の低下は不活動で説明できない」というのは言い過ぎかと思います。原因に関してはわからないが、慢性心不全患者では健常高齢者と同じ筋肉量でも筋力低下を認めることがある、という程度の解釈にとどめておくべきかと感じます。

Abstract
BACKGROUND: The goal of this study was to determine if heart failure alters knee extensor muscle torque, power production or contractile velocity.

METHODS: Heart failure patients (n=11; 70.4±4.3 yrs) and controls (n=11; 70.3±3.4 yrs) matched for age and sex were evaluated for knee extensor contractile performance under isometric and isokinetic conditions and body composition by dual energy X-ray absorptiometry. Additionally, we recruited sedentary to minimally active elderly controls to match heart failure patients for habitual physical activity and assessed activity levels using accelerometry.

RESULTS: Groups did not differ for total or regional body composition or average daily physical activity level. Despite similar muscle size and use, heart failure patients exhibited 21-29% lower (P<0.05 to P<0.01) isometric knee extensor torque throughout a range of knee angles, 15-33% lower (P=0.05 to P<0.01) peak concentric torque measured at various isokinetic speeds and corresponding reductions (P=0.05 to P<0.01) in peak power output. Expression of peak isokinetic torque data relative to isometric torque eliminated group differences, suggesting that impaired contractile function under dynamic conditions is explained by deficits in the force generating capacity of muscle. No group differences were found in the time required to reach target velocity during isokinetic contractions, an index of contractile velocity.

CONCLUSION: Because group differences in muscle torque were independent of age, sex, physical activity level and muscle size, our results suggest that muscle contractile dysfunction in these patients is likely attributable to the heart failure syndrome.

2011年1月3日月曜日

管理栄養士・栄養士倫理綱領

日本栄養士会の管理栄養士・栄養士倫理綱領について紹介します。

臨床栄養の最新号(118巻1号 2011年1月号)で、「管理栄養士・栄養士の未来を考える 臨床と教育の現場からのメッセージ」という特集が組まれています。その中に小松龍史先生の「倫理」に基づいたプロフェッショナルへ―管理栄養士の卒後教育がめざすものとはという記事があります。「倫理」に基づいたプロフェッショナルという考え方は興味深いです。

http://www.ishiyaku.co.jp/magazines/eiyo/EiyoArticleDetail.aspx?BC=061181&AC=1637

ついでですが、臨床栄養の最新号では私も「横浜南部地域一体型NSTによる地域栄養連携の推進(1)」というスポットの記事を書いています。

小松先生の記事の中に「日本栄養士会の管理栄養士・栄養士倫理綱領」が紹介されていましたので、日本栄養士会HPから引用して下記に紹介します。  

管理栄養士・ 栄養士倫理綱領制定 平成14 年4 月27 日
1. 日本栄養士会は、本会会員が、管理栄養士・栄養士としての使命と職責を自
覚し、常に自らを修め、律する基準として、ここに倫理規定を設ける。
2. 管理栄養士・栄養士は国籍、人種、宗教、思想、信条、門地、社会的な地位、
年齢、性別等によって差別を行わない。
3. 管理栄養士・栄養士は、国民の保健・医療・福祉のため、自己の知識、技術、
経験をもてる限り提供する。
4. 管理栄養士・栄養士は、社会の期待と信頼にこたえるため、常に人格の陶冶及
び関係法の遵守に努める。
5. 管理栄養士・栄養士は、業務の遂行にあたり、知識及び技術の向上及び最新
情報の収集を行い、適切な情報提供と個人情報の管理、秘密の保持に努め
る。
6. 日本栄養士会は、会員が上記規定に違反する行為があった時は、審査委員会
を開催し定款8 条の規定により、会員名簿から除名を行う。

倫理綱領は他職種でも医師、看護師、薬剤師、臨床検査技師、放射線技師、PT、OT、ST、視能訓練士のものがあります。この中で日本医師会が平成20年に改訂した医師の職業倫理指針は66ページとかなり詳細なものになっています。下記のHPでPDFをみることができますので、興味のある方はご覧ください。

http://dl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20080910_1.pdf

日本栄養士会の管理栄養士・栄養士倫理綱領は、かなり厳しい(でも正しい)と思います。5と6を素直に解釈すれば、「知識及び技術の向上及び最新情報の収集を行」っていなければ、日本栄養士会の会員名簿から除名されることになります。これってすごいことですよね。実際にこれで除名された方はいるのでしょうか?

私はFDの中に生涯学習能力を含めていて、「生涯学習能力のない時代遅れの医療人は仕事を辞めるべきだ」と講演でよく言っています。でも日本栄養士会はすでに平成14年から同じことを言っていたのですね。私より日本栄養士会のほうが辛口だと思います(笑)。

小松先生は「これはあまり省みられることがなく、それが残念なのであるが、これが、発想の原点なのである。」と言っています。もしそうだとすれば本当に残念です。日本栄養士会に所属している管理栄養士・栄養士は、仕事を辞めるか死ぬまで学習を継続しなければいけません。私も負けないように生涯学習とブログの更新を頑張りたいと思います。

週刊医学界新聞:疫学研究

週刊医学界新聞の最新号(第2910号 2011年01月03日)で疫学研究の特集が組まれています。その中に、【新春座談会】疫学研究のこれから――いっそうのエビデンス創出をめざして、という記事があります。

「臨床と疫学の相互理解を深めるために」の中から一部引用します。以下、引用です。

上島 私は若いころ,臨床医の側から疫学を学びに来るべきだと思っていたのですが,それは間違いでした。お互いに意見を戦わせて理解し合うことから交流が始まるので,やはり疫学者側が臨床に出かけていくことも,今後は非常に大事になると思います。

 私自身,高血圧学会など臨床の学会に参加し,臨床医と交流するなかで疫学の重要性を伝えられたと思います。そしてそれが,疫学者も携わるガイドラインづくりにつながりました。

二宮 若い臨床医に話を聞くと,疫学自体に興味は持っています。ただ,疫学を体系付けて学べるシステムが医学教育にないことは問題です。

上島 確かにそれはありますね。

二宮 一つの症例報告がケース・シリーズとなり,ケース・コントロールからコホート研究へつながっていきます。学生には「いざ研究したいときに備え,勉強するように」とよく話していますが,公衆衛生学で統計を習うだけでは疫学研究を行うことは難しいでしょう。やはり一度,実際の臨床研究を経験するなど医学教育を充実させていく必要性があると思います。

以上、引用です。

自分の過去を振り返ってみても、学生時代に疫学や公衆衛生学に興味があったとはとても言えませんでした…。確か追試だった気がしますし成績も散々だった記憶があります…。

一定の臨床経験をしてから、EBMをある程度きちんと実践できるようになりたいなあ、臨床研究をどうせやるのならきちんとやりたいなあと思うようになったのが、臨床疫学に関心を持つようになったきっかけです。

ですので、若い臨床医が「疫学を体系付けて学べるシステムが医学教育にないことは問題」だと感じます。卒後3-10年目程度の臨床医がきちんと疫学を学びたいと思っても、School of Public Healthで私が知っているのは、東京大学と京都大学しかありません(違ったらすみません)。

東京大学大学院医学系研究科公共健康医学専攻専門職学位課程

京都大学医学研究科社会健康医学系専攻

何らかの科で専門医を取得する前後あたりに、疫学をきちんと学習できる場があればよいのですが、そのような場は少ないと思います。例えばリハ科専門医の場合、日本リハ医学会で疫学を学習できる場はほとんどありません。そのような場を作ってほしいと日本リハ医学会の学会誌に会員の声として提案したことがありますが、その後状況に変わりはありません。今でもそのまま通じるくらいです。

「リハビリテーション科医師のための臨床研究デザイン塾」の開催を

私は約6年前に「第1回プライマリ・ケア医のための臨床研究デザイン塾」に参加する機会があり、その後も合計4回開催された「プライマリ・ケア医のための臨床研究デザイン塾」にすべて参加することができましたので、疫学の基本的な知識を多少は習得できました(と思います…)。

もちろん5日間で習熟することはできませんので、今でも不十分な知識ですが、それでももし参加していなかったら…と思うとぞっとします。ただ残念ですが、「プライマリ・ケア医のための臨床研究デザイン塾」は第4回で休塾となっています。現在は、「腎臓・透析医のための臨床研究デザイン塾」が主となっています。

i-hope 臨床研究デザイン塾™

私に解決できる課題ではありませんが、若い臨床医が疫学を体系付けて学べるシステムがもっと世の中にたくさんあれば、質の高い臨床研究も増えるし、若い臨床医のキャリア満足度も高まるだろうに…と思います。

一方、医師以外の医療職に関しては、大学院による多少の違いはあるにせよ博士課程まで進学して卒業すれば、疫学の知識に習熟して、臨床研究を自ら立案・実施し、原著論文執筆まで行えるようになるはずです。この点では臨床医より恵まれていると私は感じます。興味のある方にはぜひ大学院に進学してほしいと思います。

廃用症候群のリハと栄養の先駆者

あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願い申し上げます。
私はリハ栄養の中でも廃用症候群の臨床研究を行っていますが、今日はその先駆者を紹介いたします。金沢大学附属病院リハ科の八幡徹太郎先生です。

2006年度から2008年度まで科研費で「デコンディション症例における体力・体組成・栄養状態の変化と運動療法の意義」という研究を行っています。

http://kaken.nii.ac.jp/ja/p/18500396

上記HPに記載されている研究概要を引用させていただきます。以下、引用です。

「急性疾患後や侵襲大の手術後等にはphysical deconditioning(以下、デコンディション)が生じやすい。この状態に対する適切な改善治療としては、近年、運動療法だけでは不十分と推定されており、消耗状態や低栄養状態等を勘案した包括的治療体系が必要ではないかと考えられるようになった。しかし、このことを追求した研究は過去・現在ともに乏しい。本研究では、デコンディション患者における運動能力・ADL 改善度と治療期間中の栄養状態との関連性を分析した。その結果、体組成が全般的低値を示すような低栄養患者を除き、大部分の患者ではリハ治療期間中のデコンディション改善度とTP 値・Alb 値・食事摂取量・総栄養投与量との間には明白な関連性を認めなかった。」

より詳細な研究成果報告書のPDFファイルは下記HPで見ることができますので、こちらもぜひ見て下さい。

http://kaken.nii.ac.jp/pdf/2009/seika/jsps-1/13301/18500396seika.pdf

私はリハ学会などで八幡先生の発表を拝聴させていただきましたが、自分が廃用症候群のリハ栄養の研究を行う上でかなり参考になりました。特に「リハ治療期間中のTP値、Alb値の改善とADLの改善は無関係であった」などは、私にはかなりインパクトがありました。栄養指標とADLの関連はそう単純ではないことを認識することができましたので、このような先行研究が存在することはとてもありがたいです。

ただ、私が行った廃用症候群患者の後向きコホート研究では、Hb値と小野寺のPNI(栄養学的予後指数)とADLの改善には関連を認めました。ただ、TP値は検討してなく、Alb値では関連はなかったので、八幡先生の研究と矛盾する結果とは言えないと思っています。

現在行っている前向きコホート研究でどうなるかはまだわかりません。データ収集で苦労していますが、引き続き頑張らないとなあと改めて思っています。

また、廃用症候群の臨床研究で常に問題となるのは、廃用症候群の診断基準です。ここがしっかりしていないので、学会発表はできても、原著論文にすることはなかなか難しいのが現状です。私の仮説は、廃用=安静・低栄養(侵襲・飢餓・悪液質)複合体ですので、少なくとも今行っている臨床研究でこれを検証したいと考えています。