2012年5月4日金曜日

カンブリア宮殿 村上龍×経済人2

村上龍著、テレビ東京報道局編、カンブリア宮殿 村上龍×経済人2 できる社長の思考とルール、日本経済新聞出版社を紹介します。

http://www.tv-tokyo.co.jp/book/product/item68655.html

カンブリア宮殿は御存知の方も多いと思いますが、村上龍と主に経済人が対談する経済番組です。数少ない私の好きなテレビ番組の1つです。その対談を文庫化したものです。詳細は下記番組HPを参照してください。

http://www.tv-tokyo.co.jp/cambria/index.html

この書籍で学べることはいろいろありますが、もっとも気になった一点だけ紹介します。まずはまえがきより一部引用します。以下、引用です。

この本に登場する人たち全員は、宝石のような貴重な言葉を獲得するために、気が遠くなるような努力を日々繰り返してきて今も継続させている。そのようなミもフタもない事実を、言葉ではなく文脈から読み取っていただきたい。自分が全力で取り組める一生の仕事を持っているかどうか、人生はその一点にかかっている。

もう1つ106ページより引用します。以下、引用です。

一つのことに長期にわたって科学的努力を傾注すると必ず何事かをなし得ることができる、(中略)決定的に重要なのは、科学的な努力を長期にわたって傾注する何かと出会えるかどうかという一点なのだ。ほとんどの人はそういう対象に出会うことがなく、あるいは出会っても気づかずに通り過ぎてしまう

以上、引用です。医療人は何らかの資格を有して、その資格でずっと仕事していくことが多いため、多くの医療人が「全力で一つのことに科学的努力を傾注する仕事を持っている」と思われがちな気がします。しかし、「努力を傾注する仕事」と「全力で一つのことに科学的努力を傾注する仕事」は異なります。

「努力を傾注する仕事」は筏下りをしている医療人、「全力で一つのことに科学的努力を傾注する仕事」は山登りをしている医療人といえます。医療人で仕事に努力を傾注していないようでは問題ですが、それだけでも問題があると私は考えます。

私は今はもちろんリハ栄養の山登りをしていて「全力で一つのことに科学的努力を傾注する仕事」を持っています。しかし、リハ栄養の山登りをするまでは「全力で一つのことに科学的努力を傾注する仕事」を持っていませんでした。「努力を傾注する仕事」を10年以上していました。この違いは極めて大きいです。

今はリハ栄養関連の最先端の資料(ほとんどが英語の論文ですが)をチェックしています。理系研究者であればこんなことは当然です。自分の狭い専門領域で情報を知らないわけにはいきませんし。でも私がそんな当然のことを始めたのは、ほんの数年前からです。

いろんなことに「努力を傾注する仕事」は医療人になって最初の3~10年程度、必要です。その間に「全力で一つのことに科学的努力を傾注する仕事」に出会い、実際に一つのことに科学的努力を傾注すればよいのですが、これができている医療人は少数です。

すべての医療人が何事かをなし得る必要はないかもしれません。私もまだ何事かをなし得たとは言えません。でも「全力で一つのことに科学的努力を傾注する仕事」に出会うかどうかで、人生はかなり変わります。多くの医療人に「出会い」を意識して仕事してほしいと思います。

【目次】
1 安全でおいしい食(田中邦彦・くらコーポレーション社長/伊勢彦信・イセグループ会長 ほか)/
2 新しい技術と価値(篠原欣子・テンプスタッフ社長/中村義一・三鷹光器会長 ほか)/
3 挫折からの挑戦(出井伸之・元ソニー最高顧問/池森賢二・ファンケル名誉会長 ほか)/
4 伝統からの脱却(小仲正久・日本香堂会長/鈴木敬一・築地魚市場社長 ほか)/
5 危機感をキープするメジャー企業(木瀬照雄・TOTO会長/加藤壹康・キリンホールディングス会長 ほか)

4 件のコメント:

  1. 佐久間邦弘5/05/2012

    若林先生 とっても興味深いお話ですね。「努力を傾注する仕事」と「全力で一つのことに科学的努力を傾注する仕事」の違いですか。。。僕の場合基礎研究が仕事ですので、世界を相手にどうやって勝負するか?を一生懸命考えると何となく道が見えてくる気がしてます。でも若林先生の文章を読んでて感じましたが、確かに医療人は難しい部分ありますよね。たとえ「努力を傾注する仕事」のスタイルであったとしても、それに疑問を抱くヒトは少ないのではないか?と感じます。以前5年間勤めていた医大でも、志が高い臨床の医師そこまで多くなかった気がするなあ。こういうブログを見て意識が変わる方増えてくれると嬉しいですね。

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  2. 佐久間先生、いつもどうもありがとうございます。基礎研究の場合、大学院生は「努力を傾注する研究」を行い、それ以降は「全力で一つのことに科学的努力を傾注する研究」を行うことが多い気がします(違ったらコメントをよろしくお願い申し上げます)。

    医療人の場合、「努力を傾注する仕事」のスタイルで定年まで継続しても、それで仕事できてしまいますし悪いわけでもありませんので、なかなか難しいです。ワークライフバランスもありますし。

    でも「全力で一つのことに科学的努力を傾注する仕事」に出会って傾注すると、仕事の質や仕事QOLが変わることは実感しています。まったく理論的でない文章で恐縮ですが、キャリアをより充実させたい医療人には、こういった意識を持っていただけると嬉しいです。いつもどうもありがとうございます。

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  3. 佐久間邦弘5/06/2012

    若林先生 返信ありがとうございます。先生の、『基礎研究の場合、大学院生は「努力を傾注する研究」を行い、それ以降は「全力で一つのことに科学的努力を傾注する研究」を行うことが多い』という意見あってると思います。
    ただ現実にはやりたいという研究が定まらず、流行の仕事に乗っかり、毎年あるいは2年おきに研究テーマが目まぐるしく変更という似非研究者が本当多いんですよね。僕が一番気にしてるのは、取りかかった研究で最低でも3年間仕事ができるかということです。やってみてたとえ予想とは違う結果だったとしても、その次の実験がきちんと意味のあるものになるかどうかということまで考えて、そのテーマを選ぶかを決定します。だからテーマ決定に思いのほか時間がかかります。やるからには誰々さんはどんな研究をしたヒトで、この分野の専門家だという評価を頂きたくて日々精進してます。こういう風に思わない基礎研究者意外に多いのですよ。不思議なものですね。

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  4. 佐久間先生、どうもありがとうございます。これは基礎も臨床も同じだと思いますが、毎年あるいは2年おきに研究テーマを変更して十分な成果が出るわけがないですよね。でも私もそんなことを随分長い間、していました(苦笑)。

    15年前程から日本リハ医学会(もしくは国際リハ学会)の学術集会で毎年、学会発表をしていますが、頻回にテーマを変えていました。それに学会発表だけで終わり論文も書いていませんでしたので、まさに似非研究者です(笑)。

    テーマ決定に相当の時間がかかるのはわかります。でも大学院修了後は、自分で熟考してテーマを決めるのが普通だと思っていました。不思議といえば不思議ですね。

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