金井 壽宏、佐藤 郁哉、ギデオン・クンダ、ジョン・ヴァン-マーネン著:組織エスノグラフィー、有斐閣を紹介します。
http://www.yuhikaku.co.jp/books/detail/9784641163621
エスノグラフィーというと質的研究の中でも現象学の次に近付きがたいイメージを私は持っていましたが、この書籍は組織エスノグラフィーの初級書といえると思います。私が知っている範囲では最も読みやすいエスノグラフィーの解説書です。
まえがきにエスノグラフィーとは「他の方法よりも深く調査対象に入り込み、参加者として観察することによって、内部者の見解を解明するためのフィールドワークの報告書(モノグラフ、論文、著書などの作品)のことである。また、成果となる作品を指すばかりでなく、フィールドワーク的な調査プロセスそのものを指してエスノグラフィーということもある。」とあります。つまり、過程でもあり成果でもあります。
現代は組織社会ですから、組織の様子を深く知る方法として、組織エスノグラフィーは極めて有効だと感じました。でも「今や猫も杓子もフィールドワーク。でも、ただ出かけりゃいいってもんじゃない」とある通りです。この書籍を読むと、とても質の高いエスノグラフィーとは、質の高い質的研究とはこういうものか…と実感できます。そして自分の質的研究は猫も杓子もだったなあ…と気付かされます。
組織エスノグラフィーで質的研究を行うかどうかはともかくとして、このような質的研究方法があることを知ることは、医療人にも学びが多く有益だと思います。ただ、質的研究全般の入門書ではありませんので「質的研究とは何か」を学びたい方には、この書籍の前に質的研究の入門書を読まれることをお勧めします。
日本では看護の世界は別として、リハや栄養の世界でエスノグラフィーによる質的研究の論文は、私は読んだことがありません。今後に期待したいところです。
東京理科大学伊丹敬之教授の書評も参考になりますので、紹介しておきます。
http://www.yuhikaku.co.jp/review/detail/230
目次
まえがき
第1部 導入──組織エスノグラフィーとは何か
1 組織エスノグラフィーへの招待(金井壽宏)
2 組織エスノグラフィーの源流(佐藤郁哉)
第2部 3つの告白──組織エスノグラフィーの実際
3 組織エスノグラフィー考──『企業文化のエンジニアリング』ができるまで(ギデオン・クンダ)
4 ボストンの企業者ネットワーキングの場──対照的な場のエスノグラフィーと比較分析(金井壽宏)
5 組織エスノグラフィーと試行錯誤──『現代演劇のフィールドワーク』ができるまで(佐藤郁哉)
6 エスノグラフィーvs.参与観察(佐藤郁哉)
第3部 組織エスノグラフィーの過去・現在・未来
7 続・フィールドワークの物語──私の夕食のための詩(ジョン・ヴァン-マーネン)
あとがき
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