2013年5月1日水曜日

実践コミュニティ

エティエンヌ・ウェインガー、リチャード・マクダーモット、ウィリアム・M・スナイダー(野村恭彦監修、野中郁次郎解説、櫻井祐子訳):コミュニティ・オブ・プラクティス―ナレッジ社会の新たな知識形態の実践.翔泳社;2002、を紹介します。

http://books.shoeisha.co.jp/book/b72796.html

医療人は多くの学会や研究会に参加、所属していますが、これらは実践コミュニティといえます。特に私の場合、日本リハビリテーション栄養研究会を始めいくつかの研究会を運営しているため、活気のある学習する組織を運営できればと思い、内容をまとめてみました。

実践コミュニティを発展させることに目を向けがちですが、5段階の発展モデルでは最後に変容として、どんなに健全なコミュニティでも、寿命を迎えるとあります。振り返ってみれば寿命を迎えてしまった組織もありました。これもある程度はやむをえないのかと感じています。以下、まとめです。

 実践コミュニティ(コミュニティ・オブ・プラクティス)とは、「あるテーマに関する関心や問題、熱意などを共有し、その分野の知識や技能を、持続的な相互交流を通じて深めていく人々の集団」である。この言葉が最初に登場したのは、書籍「状況に埋め込まれた学習―正統的周辺参加」の中である。この書籍では、仕立て屋を例に挙げて伝統的な徒弟制度における学習の多くは、職人や上級徒弟の間の相互交流で行われていると分析し、「学習はコミュニティ・オブ・プラクティスへの参加の過程である」とした。ここでの学習とは、個人が知能や技能を習得することではなく、実践コミュニティへの参加を通して得られる役割の変化や過程そのものである。

 実践コミュニティはどこにでもあり、誰もが職場や学校、家庭、趣味などを通じて、いくつかの実践コミュニティに所属しており、目新しいものではない。しかし、実践コミュニティは、学習する組織を実現させるための具体的な組織基盤を提供する。実践コミュニティの基本的な構造は「領域」、「コミュニティ」、「実践」という3つの基本要素の組み合わせである一連の問題を定義する知識の領域(ドメイン)この領域に関心をもつ人々のコミュニティ(人々の集まり)、この領域内で効果的に仕事をするために生み出す共通の実践(プラクティス)で構成される。これら3つの要素がうまくかみ合って初めて、実践コミュニティは知識を生み出し、共有する責任を担うことのできる社会的枠組となる。

 実践コミュニティは自然に発展を遂げるが、適切な設計を行えばコミュニティを大きく発展させることができる。なぜならメンバーは設計することを通じて、発展の触媒となるような知識やイベント、役割を特定できるからである。組織にある情熱や人間関係、自発的な活動の大切さを十分認識するような形で、組織をも設計する。実践コミュニティの育成には、経験から引き出された以下の7原則がある
①進化を前提とした設計を行う。
②内部と外部それぞれの視点を取り入れる。
③さまざまなレベルの参加を奨励する。
④公と私それぞれのコミュニティ空間を作る。
⑤価値に焦点をあてる。
⑥親近感と刺激を組み合わせる。
⑦コミュニティのリズムを生み出す。

 実践コミュニティの発展には、5つの段階がある。潜在、結託、成熟、維持・向上、変容である。コミュニティがこれらの段階を経て進化するにつれ、コミュニティを発展させるために必要な活動もまた変わっていく。
①潜在
 コミュニティの発展は、すでに存在する社会的ネットワークから始まる。重要な問題に関心を持つ人々が非公式な集団を形成し、これらの人々がネットワーク作りを始めることが多い。潜在的なコミュニティは発展したコミュニティの基本要素をすでにいくつか備えており、発展する可能性を十分に秘めている。
②結託
 コミュニティの構築は、計画段階の人脈作りからすでに始まってはいるが、コミュニティ・イベントの開催をもって結託し、正式に立ち上げられる。この時期に、メンバー間の結びつきや信頼を築き、共通の関心や必要性に対する認識を高めるような活動を行うことが、特に重要である。
③成熟
 成熟段階の間にコミュニティが直面する主な課題は、その価値を確立することから、コミュニティの焦点、役割および境界をはっきりさせることへと移っていく。しばしばこの段階で、領域とコミュニティ(人数)と実践が同時に拡大する。この段階での主要な課題は、次のとおりである。
 領域:領域が組織で果たす役割や、他の領域との関係を明らかにすること。
 コミュニティ:もはや単なる専門家の友人ネットワークではないコミュニティの境界を管理すること。
 実践:コミュニティの知識を体系化し、知識の世話人としての役割を真剣に受け止める。コミュニティ内部にある知識の格差に気付き、知識の最前線がどこにあるかを知るようになり、より体系的なやり方でコミュニティの中核的な実践を定義する必要を感じ始める。
④維持・向上
 成熟したコミュニティにとって主要な課題は、実践、メンバー、技術、組織などとの関係が成長に伴って自然に変化する中で、いかにして勢いを持続させるかということである。時には活力の低下が悪循環を引き起こすこともある。この段階での主要な課題は、次のとおりである。
 領域:領域の有用性を保ち、組織での影響力を高める。
 コミュニティ:コミュニティの雰囲気と知的焦点を、活気に満ちた魅力的なものにする。
 実践:コミュニティを常に最先端の状態にとどめておく。
⑤変容
 コミュニティの劇的な変容や突然の死は、誕生、成長、寿命などと同じように自然な出来事である。どんなに健全なコミュニティでも、寿命を迎える。コミュニティが変容する方法には、衰弱する、社交クラブとなる、分裂や合併、制度化がある。コミュニティがはかない存在だからこそ、メンバーは今コミュニティで経験していること―活気、深いかかわり合い、仲間意識など―の進化を認めることができる。

目次
 第1章 実践コミュニティについて―今なぜ重要なのか
 第2章 実践コミュニティとその構成要素
 第3章 実践コミュニティ育成の七原則
 第4章 発展の初期段階―実践コミュニティの計画と立ち上げ
 第5章 発展の成熟段階―実践コミュニティを成長させ、維持する
 第6章 分散型コミュニティという挑戦
 第7章 実践コミュニティのマイナス面
 第8章 価値創造の評価と管理
 第9章 コミュニティを核とした知識促進活動
 第10章 世界の再構築―組織を超えたコミュニティ

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