まず、学習の高速道路論を紹介します。以下、著書からの引用です。
「将棋の羽生善治二冠は、その変化の本質を「学習の高速道路と大渋滞」という概念として提示した。(中略)いったん言語化された知がネットを介して用意に共有されるこれからの時代は、ある分野を極めたいという意思さえ持てば、あたかも高速道路を疾走するかのようなスピードで、効率よく過去の叡智を吸収できる。」
ITとネットの進化によって、リハ栄養を学習するための高速道路ができつつあります。私がリハ栄養の山登り(山作り)をしようと決めたのが2006年、それから5年かかってようやくリハ栄養の山が見えてきたのが現状です。しかし、これからリハ栄養の山登りをする医療人は、今の私と同じところまで登るのに5年もかける必要はありません。
まず栄養面の学習ですが、医師はJSPENの認定医・指導医、コメディカルはJSPENのNST専門療法士の取得を目指すのが1つの目標になります。歯科医師に取得できる資格がJSPENにないのは問題ですが・・・。
ネットで栄養を自己学習できるツールはすでにかなり整っています。一例を紹介しますと、
バーチャル臨床栄養カレッジ
http://www.v-eiyo-college.jp/
キーワードでわかる臨床栄養
http://www.nutri.co.jp/dic/
ESPENのLLL (英語)
http://www.espen.org/lllprogramme.html
があります。特にLLLはかなりレベルが高く、認定医やNST専門療法士の取得後の自己学習に最適です。これでかなりのところまで学べるはずです。英語が大丈夫であればですが・・・。山登りするための道具・スキルがFDになりますが、その中でもITと英語は自己学習に重要なスキルです。
次にリハ栄養の学習ですが、ネットでおすすめするのはこのブログと、以下の雑誌のサイトです。
Journal of Cachexia, Sarcopenia and Muscle (英語)
http://www.springerlink.com/content/2190-5991/
この雑誌は無料で全文見ることができます。悪液質やサルコペニアに関する基礎研究、臨床研究が掲載されますので、英語ですがおすすめです。他にも日本語でリハと栄養に関するブログがいくつか出てきています。もっと増えると嬉しいですね。
日本リハ栄養研究会への入会もおすすめします。これはFacebookベース(もちろんネット上ですね)の研究会で、リハ栄養に関する情報交換や交流ができます。
https://sites.google.com/site/rehabnutrition/
ネットではありませんが、リハ栄養の学習には、やはり以下の3冊は必須です。上から順番にリハ栄養のWhy、What、Howの書籍です。
PT・OT・STのためのリハビリテーション栄養-栄養ケアがリハを変える.医歯薬出版、2010.
リハビリテーション栄養ハンドブック.医歯薬出版、2010.
リハビリテーション栄養ケーススタディ‐臨床で成果を出せる30症例.医歯薬出版、2011.
その気になって(ここに壁がありますが)これらを駆使すれば、医療人なら誰でも数か月でリハ栄養の高速道路を走りきることは可能な環境となりました。NST専門療法士の取得も1-2年あれば十分可能です。そしてすでにリハ栄養の高速道路を走りきり、NST専門療法士を取得した医療人も増えつつあります。
高速道路を走りきっていない医療人はまず走りきることが目標になりますが、走りきった先には今後、大渋滞が起こってきます。高速道路を走りきる医療人は今後も増えていきますが、走りきった先には整備された道路がないからです。何をすればよいのかわからず走りきった後に立ち止まっている医療人もいます。以下、梅田望夫氏の著書からの引用です。
「学習の高速道路も、高速道路を走りきったなと思ったあたり(「その道のプロ」寸前)で大渋滞が起こるのだと羽生は言う。同質の勉強の仕方でたどりつけるのはそこまで。誰にでも機会が開かれるゆえ参入者も増え、しかも後の世代も次々に失踪してきては「その道のプロ」寸前での大渋滞にはまる。「その道のプロ」として飯を食い続けていけるかどうかは、大渋滞に差し掛かったあとにどう生きるかの創造性にかかっている。」
リハ栄養の高速道路を走りきった医療人はその後、どうすればよいのでしょうか。梅田望夫氏は2つの道を提示しています。以下、引用です。
「大渋滞の先でサバイバルするには、大渋滞を抜けようと「高く険しい道」を目指すか、大渋滞に差し掛かったところで高速道路を降りて標識のない「けものみち」を歩いていくか、その二つの選択肢があると私は思う。そのどちらの道を目指すにせよ、自らの「向き不向き」と向き合い、みずからの嗜好性を強く意識し(それが戦略性そのもの)、「好きを貫く」ことこそが競争力を生むと私は考える。」
著書では「高く険しい道」よりも「けものみち」のほうを推奨しているようにみえます。これは梅田氏が「けものみち」を歩いてきたからかもしれません。しかし、私は「高く険しい道」を歩いていますので、私はこちらを主に推奨したいと思います。
リハ栄養の場合、今のところ「高く険しい道」はそれほど高くも険しくもないというのが、私の考えです。リハ栄養の高速道路を走りきった医療人がまだ少ないからです。
リハ栄養の「高く険しい道」を進むには、疾患・障害を1つにしぼって、その1つの疾患・障害について深く学習して、研究テーマ(PECO作り)を持ち、観察研究(可能なら介入研究でも構いませんが)を行い、日本語の原著論文(可能なら英語がよいですが)を執筆することです。
私の場合、廃用症候群1つにしぼって、廃用症候群と栄養に関する先行研究が少ないことを知り、研究テーマ(P:廃用症候群の患者は、E:低栄養の場合、C:栄養状態良好の場合と比較して、O:リハのADL予後が悪い)を持ち、観察研究を行い、日本語と英語の原著論文を執筆しました。
Hidetaka Wakabayashi, Hironobu Sashika: Association
of nutrition status and rehabilitation outcome in the disuse syndrome: a
retrospective cohort study. General Medicine 12(2)p69-74, December
2011
若林秀隆、佐鹿博信:入院患者における廃用症候群の程度と栄養障害の関連: 横断研究.臨床リハ20(8)p781-785,
2011年8月
ただし、「高く険しい道」は高速道路と異なり、数か月で走りきることはできません。日本語の原著論文が掲載されるまで、2-3年程度かかると考えておいたほうがよいでしょう。中長期計画をもたなければ、この道を進むことは困難です。でも私はこの道を多くの医療人に歩いてほしいですし、そのお手伝いを日本リハ栄養研究会で行いたいと考えています。
次にリハ栄養の「けものみち」ですが、こちらはリハ栄養というツール、スキルを活用して、リハ栄養とは別の山を登ることになります。例えば呼吸リハ、心臓リハ、腎臓リハ、肝臓リハといった内部障害リハの山登りを選択したとします。この際、リハ栄養を知っているほうが内部障害リハの山登りがかなり有利となります。
内部障害リハで栄養が重要なことは言うまでもありませんが、栄養の重要性を漠然と知っているだけの医療人と、NST専門療法士を取得しリハ栄養の高速道路を走りきった医療人との違いは大きいです。臨床でも研究でも山登りに大差がつくと私は考えています。
リハ栄養の高速道路を走りきったところで、次に「高く険しい道」を行くか「けものみち」を行くか、一定の考える時間はあってもよいと思います。でも長いこと立ち止まるのはよいことだとは思いません。ずっと立ち止まるくらいなら、まずは日本リハ栄養研究会で「高く険しい道」を一緒に歩いてみませんか。