全日本病院協会が行った、平成22年度老人保健事業推進費等補助金「胃瘻造設高齢者の実態把握及び介護施設・在宅における管理等のあり方の調査研究事業」の報告書が下記のHPで見れます。
http://www.ajha.or.jp/voice/pdf/other/110416_1.pdf
上記HPの11-12ページのまとめの一部を以下に引用します。参考になれば幸いです。
入院患者における胃瘻造設者の割合は、急性期病院が7%、慢性期病院が30%、ケ
アミックス病院が21%であった。入所者における胃瘻造設者の割合は、介護老人福祉
施設が9%、介護老人保健施設が7%、介護療養型老人保健施設が28%であった。訪
問看護ステーションの利用者における胃瘻造設者の割合は10%であった。
本人が胃瘻を造設することを決定したケースは極めて少なく、家族が胃瘻造設を決
定しているケースが多かった。自分自身は胃瘻を造設して欲しくないと考える家族が
20%程度いるので、自分の意思をはっきりと表明できる段階で、胃瘻その他について
意思表明(リビングウィル)しておくことが望ましい。ただし、その後の状態変化に
より、胃瘻についての考え方が変わっていないかの確認は必要であろう。なお、家族
自身が意思決定能力を失ったと想定したときに、胃瘻造設の決定に参加して欲しい人
として「家族」をあげる回答が90%程度あったので、胃瘻造設を家族が決めることは、
本人に受入れられていると見なしてよいと考えることもできる。
胃瘻造設者の状態像については、90%以上が寝たきりであることが分かった。今後、
胃瘻造設高齢者は増加すると予想される。胃瘻造設高齢者の増加により、業務負担が
増加すると回答した職員は70%から80%であった。
介護保険施設において、許容できる胃瘻造設者数を増やすために必要なこととして、
50%以上の施設が「看護職員を増やす」、「職員研修等を充実させる」、「病院との連携
を強化する」をあげていた。
発生する頻度が最も高い胃瘻に関する合併症・問題点は、「発赤・スキントラブル」、
「不良肉芽」、「下痢・便秘」、「逆流・嘔吐」、「誤嚥性肺炎」が多く見られた。また「自
己抜管」、「自然抜管」、「チューブ閉塞」といったトラブルも10%程度の施設で見られ
た。これらの合併症やトラブルは、病院では、緊急に対処できると考えられるが、介
護保険施設や在宅療養では緊急対応が困難なことが多い。特に胃瘻抜去後は放置する
と、一晩で再挿入不可能となる。またそれ以外にも緊急性の高い医療を必要とする事
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例が多い。その解決策として、地域に密着し、軽症~中等度の急性期疾患に対応でき
る中小民間病院(全日病の提唱する地域一般病棟、医療療養病床、在宅療養支援病院
など)や体制が整っている在宅療養支援診療所など、胃瘻の管理についての意識の高
い医療機関との連携を行うことが望まれる。
本調査の結果から、全国の胃瘻造設者数は約26 万人と推計された。また、介護保
険施設及び訪問看護ステーションでの受入余力は約10 万人という推計結果であった。
10 万人の受入余力のうち、訪問看護ステーションの受入余力は約7 万人と大きいが、
家族が栄養剤を注入することが前提となっている。職員が栄養剤を注入するケースが
増加すれば、受入余力は減少する。仮に、栄養剤を職員が注入する胃瘻造設者の割合
が20%になったとすると、訪問看護ステーションの受入余力は約1 万人に激減する。
在宅療養している胃瘻造設者については、家族が栄養剤を注入する状況が維持でき
なくなった場合の対応が問われることになるだろう。
また、胃瘻造設者の12%が胃瘻造設後5 年超経過している。胃瘻造設後の経過年数
が長くなると、家族の介護力などの胃瘻造設者をとりまく環境が変化するであろう。
現状では栄養剤の注入を止めることは、法的・社会的に困難であるが、状況によって
は中止できるようにすることを、国民的コンセンサスを形成した上で、認めるように
していくかを議論する必要がある。
ヒアリング調査結果から介護保険施設では、看護職員しか胃瘻への栄養剤の滴下が
できないと、国から指導されている。また、胃瘻を理由に入所受入を拒否してはいけ
ないと指導されている。特養では看護職員が少ないので、胃瘻造設者の受入数に限度
があり、上記の2 つの指導内容は矛盾しており、両立させることは難しいとの声があ
った。
また、短期入所で胃瘻患者を受入れるケース、通所の胃瘻患者に昼間だけ栄養剤を
施設職員が注入するケースがあり、入所者以外の胃瘻造設者のケアを行っている介護
保険施設があった。
今後増加が予想される胃瘻造設者を受入れる体制を整えるためには、胃瘻について
の教育・研修を受けた介護職員が、看護職員の指導のもとで栄養剤を注入できるよう
にする必要がある。
胃瘻は現時点でも広く普及しており、今後さらに増加していくことが予想されるの
で、胃瘻造設者の受入体制を整備していく必要がある。また、胃瘻造設時点、胃瘻継
続期における課題には、社会的な合意形成や法的整備が必要なものがあるので、胃瘻
について国民的なコンセンサスを形成するための議論をしていく必要がある。
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