9月9日のESPENに参加した感想を記載します。
①Fatty muscles and metabolic consequences
・Epidemology of myosteatosis
・Physiological consequences of myosteatosis
・Adipose tissue-muscle crosstalk in insulin resistance
内容
・筋肉への脂肪蓄積には、皮下脂肪、筋細胞外、筋細胞内(異所性脂肪蓄積)の3種類があるが、ここで問題としているのは筋細胞内脂肪蓄積である。
・検査方法は、CT、MRI、MRS(MRスペクトロスコピー)、生検がある。筋肉が減衰(attenuation)すると、例えばCTなら濃度が異なってくるので、Leanな筋肉とFattyな筋肉を分類できる。
・加齢に伴い筋細胞内脂肪蓄積は増加する。筋肉量がそれほど減少しなくても増加することがある。肥満の場合に増加する。筋力低下、移動能力低下、在宅の場合入院増加と関連している。
・肥満患者の筋細胞内脂肪蓄積に対して、減量を目指した食事療法と運動療法(筋トレ含め)の併用によって、脂肪減少(全身および筋細胞内)と筋肉量・筋力増加は可能である。
・筋細胞内脂肪蓄積とインスリン感受性は負の関連がある。しかし、アスリートはインスリン感受性が高く筋細胞内脂肪蓄積も多いパラドックスとなっている。インスリン抵抗性があると、ミトコンドリアの機能が低下しやすいために筋細胞内に脂肪が蓄積しやすい。
感想
・Muscle quality(筋肉の質)という言葉はあまり出てきませんでしたが結局、このことに関する内容だったと感じています。
・筋肉量と筋力には相関を認めますが、その相関は強いとは言えません。その原因の1つに筋細胞内脂肪蓄積があるといえます。
・ただし、筋細胞内脂肪蓄積であれ筋肉量減少であれ、治療は食事療法と運動療法の併用であり、大差はないと思います。食事の基本は高蛋白、運動の基本は持久力と筋力トレーニングの併用でしょう。
②ポスター発表
私は廃用症候群の予後と栄養状態に関する前向きコホート研究を発表しました。発表と言っても、12時30分から14時の間立っているだけで、特にプレゼンの時間はありませんでした。私は真面目に立っていましたが、貼り逃げしている方も少なくないようでした。
声をかけてくださったのは、すべて日本からの参加者でした。「廃用症候群」という概念はアメリカで生まれて日本に伝わり、リハの臨床現場で普及しましたが、実は欧米ではあまり普及していません。ICUAWの発表であれば、より関心を持たれたかもしれません。
国際学会ですべて日本の方と日本語でディスカッションするのもどうかと思いますが、何人かの高名な先生方と御挨拶してディスカッションすることができたのは、有意義でした。アルツハイマー病高齢者の栄養状態と口腔機能に関する発表に関しては、いろいろ質問させていただきました。
リハ関連の発表はほとんどありませんが、脳卒中、大腿骨頸部骨折、COPD、CKD、パーキンソン病の発表はありました。CKDstage3で8週間、高エネルギー・高蛋白の栄養剤を投与しても腎機能悪化はほとんどないという研究発表がありました。
つまり、回復期リハで患者がCKDの場合、低蛋白食にすべきと思われている方は少なくありませんが、8週間程度高蛋白食にしても腎機能に対する問題はあまりありません。むしろ筋肉量・筋力を増加するためには、「期間限定(2-3カ月程度、回復期リハの入院期間中)」で高蛋白にすべきです。
口演が全部で51、ポスターが全部で約600ですので、ほとんどがポスターでした。開催国のスペインをおさえて、日本からの発表が最も多かったのはやはり驚きでした。緊張しましたが無事終わって、かなりほっとしています。
③Sir David Cuthbertson Lecture
本来の講師予定だった方が体調不良で講演できなくなり、1週間前に急遽 、Y.Boirie先生が担当することになったそうです。
Language of protein nutrition - how dose food speak to our muscles
内容
・Cuthbertson先生は、1930年代に運動と食事摂取のタイミングに関する論文を執筆している。1940年代に侵襲下での筋蛋白分解・合成に関する論文を執筆している。
・筋肉は1日2%(100g)、肝臓は1日25%、腸管は1日40%が分解して入れ替わっている。
・侵襲時、不活動時などにアナボリック抵抗性を認め、筋蛋白合成が難しくなる。Lipotoxicity(脂肪毒性、多量の脂肪によって起こる膵β細胞障害)のために、肥満患者では筋蛋白合成が低下する可能性がある。
・抗酸化、抗炎症(n3脂肪酸)で筋蛋白合成が増加するというエビデンスもある(賛否両論ですが)。高ロイシン、蛋白のPulse feeding(1回の食事で1日蛋白必要量の7-8割を投与)で筋蛋白合成が増加するエビデンスがある。
・ビタミンD欠乏の場合には、ビタミンD投与で筋蛋白合成が増える。
・筋蛋白合成の対策としては、栄養、運動、ホルモン、薬物の併用がベスト。
感想
・Cuthbertson先生の研究から約80年経過しても、リハ領域での運動と食事摂取のタイミングに関する研究や実践は少ないです。日本にリハが本格的に広まり始めたのが約50年前とはいえ、この50年間、リハ栄養・代謝に関する研究はあまりにも少ないと感じます。
・先人の研究や歴史から多くのことを学び、リハ栄養の臨床・研究の質をより高めていくことの重要性を再認識しました。道は遠いですが…。
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