2010年2月3日水曜日

食思不振の診断方法

今日はサルコペニアと悪液質のコンセンサス定義の論文の中から、食思不振の診断方法を紹介します。

Muscaritoli M, et al: Consensus definition of sarcopenia, cachexia and pre-cachexia: Joint document elaborated by Special Interest Groups (SIG) “cachexia-anorexia in chronic wasting diseases” and “nutrition in geriatrics”. Clinical Nutrition (2010), doi:10.1016/j.clnu.2009.12.004

食思不振は前悪液質と悪液質のいずれの診断基準にも含まれている項目で、その評価はとても重要です。

通常は食欲の有無を本人に確認する程度でしょう。特に早期満腹感はがん患者の独立した予後因子(予後不良)という報告があります。ただその際、抑うつ状態や摂食・嚥下障害の合併の有無の確認が必要です。

定量的には、必要量の70%以下の食事摂取量であるかが1つの目安になります。VAS(ビジュアルアナログスケール)で評価する方法もあります。

より厳密な評価方法には質問票があります。日常診療で用いる必要はあまりありませんが、臨床研究の際には、このような信頼性、妥当性が検証済みの質問票を用いることが必要です。

FAACT(Functional Assessment of Anorexia/Cachexia Therapy)質問票というがん患者に用いる39項目の質問票があります。このうち12項目が食欲を含んだ栄養に関連しています(論文の表1)。正確な訳ではないかもしれませんが記載します。

・食欲良好である
・食事量は十分足りている
・自分の体重が心配である
・ほとんどの食事の味が不快である
・どの程度やせてみえるか心配である
・食事を始めるとすぐに食事への興味がなくなる
・「重たい」食事を食べるのは難しい
・家族や友人が食べるようにプレッシャーをかける
・嘔吐している
・食べるとすぐに満腹になる
・腹痛がある
・私の健康状態は改善している

これら12項目をそれぞれ5段階(まったくない、少しある、いくらかある、けっこうある、とてもある)で評価して得点をつけます。「食欲良好である」、「食事量は十分足りている」、「私の健康状態は改善している」はまったくないが0点、とてもあるが4点で、他の項目はまったくないが4点、とてもあるが0点として計算します。
合計点が24点以下なら、食思不振ありと診断してよいのではと提案しています。

論文の表では「自分の体重が心配である」がまったくないが0点、とてもあるが4点となっていますが、この質問票は点数が高いほどよいので、逆だと思います。

食思不振への対策に関してはあまり記載されていませんが、「家族や友人が食べるようにプレッシャーをかける」という項目が質問票に入っているように、NSTや管理栄養士が患者にもっと食べるように安易にプレッシャーをかけるのは、かなり悪いことです。「食ったか食ったか」と聞くだけで摂取量が増えるとも思えません。

食思不振の原因を鑑別して、それに見合った対処方法をとることが大切です。原因の一部を記載します。

・抑うつ状態
・摂食・嚥下障害
・味覚障害
・嗅覚障害
・吐気、嘔吐(胃食道逆流)
・VitB1不足状態
・悪液質、前悪液質
・侵襲(CRPが高い、発熱)
・薬剤性(副作用)
・食事の好み

他にも原因はありますが、食思不振で摂取量が少ないから安易に経管栄養剤の経口や静脈経腸栄養に走るのではなく、食思不振の原因を追究して対策を立案し実行することが重要だと考えます。

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