今日は、町田修一、黒坂光寿:サルコペニアー研究の現状と臨床への応用ーサルコペニアの分子メカニズム.老年医学48(2)169-176,2010を紹介します。
抄録
加齢に伴い骨格筋の筋肉量および筋力は低下する.しかし,この加齢性筋肉減弱症(サルコペニア)がどのような分子メカニズムで発症するかについてはよく知られていない.最近,IGF-1シグナルや骨格筋組織幹細胞である筋サテライト細胞の機能低下が,サルコペニア発症において重要な役割を担っていることがわかってきた.そこで本稿では,加齢に伴う骨格筋での筋タンパク質バランス(合成と分解)や筋サテライト細胞の機能低下に関与する分子メカニズムについて,最近の研究成果を基に概説する.
サルコペニアの原因には、加齢、活動(廃用)、疾患、栄養がありますが、すべてのサルコペニアで筋蛋白質合成の低下、もしくは筋蛋白質分解の亢進によるインバランスを認めます。
ただ、加齢によるサルコペニア(原発性)では、筋線維数の減少、速筋線維に選択的な筋萎縮を認めるのに対し、活動(廃用)では筋線維数には変化がない、速筋線維よりも遅筋線維に萎縮を認めるという違いがあります。そのため、活動(廃用)による筋萎縮を二次性サルコペニアと定義することには異論もあるかと思います。
加齢に伴う筋蛋白質合成の低下は、主に成長ホルモン(GH)とインスリン様成長因子(IGF-1)の低下が関与しているようです。IGF-1は筋サテライト細胞(筋肉の幹細胞)の増殖を刺激しますので、IGF-1の低下で筋肉量も少なくなります。テストステロンの低下も関連していると思われます。
一方、筋蛋白質分解の亢進に影響する液性因子として、腫瘍壊死因子(TNF-α)やインターロイキン6(IL-6)があります。IL-6は高齢者では高いという報告もあります。TNF-αはむしろ悪液質を生じるような疾患で高いことが多いです。
こういう分子メカニズムを見ると、サルコペニア対策としてIGF-1の投与や抗TNF-α薬、抗IL-6薬を投与すればよいのではないかと単純に考えてしまいます。ただ、大変高額な治療になりますので、有効だとしても費用効果分析が必要ですが…。
実際そのような研究も一部行われていますが、現時点ではこれらの薬物療法よりもレジスタンストレーニングのほうが確実に効果的のようです。分子メカニズムの解析がますます進んで、より効果的なレジスタンストレーニングの方法や、安価で有効な薬物療法の開発につながればと思います。
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