以前から何度かこのブログでサルコペニアによる摂食・嚥下障害を取り上げています。臨床場面での実感としては二次性サルコペニアで考えれば、脳卒中の次に多い摂食・嚥下障害の原因疾患・状態だと私は考えています。
二次性サルコペニアには神経筋疾患(ALS、多発性筋炎など)による嚥下筋の筋萎縮だけでなく、廃用性の筋萎縮、低栄養(飢餓)の筋萎縮、高齢者の筋萎縮、他疾患(侵襲、悪液質含む)による筋萎縮も含みます。COPDや大腿骨頸部骨折後の嚥下障害もこの中に含まれますので、その評価と治療はとても重要だといえます。
しかし、サルコペニアによる摂食・嚥下障害には課題が多いのが現状です。
①サルコペニアによる摂食・嚥下障害の診断基準がない。
サルコペニアは四肢筋肉量が若年の2SD以下で、筋力もしくは歩行能力が低下していれば診断するという基準がありますが、これを満たした嚥下障害患者をすべてサルコペニアによる摂食・嚥下障害と判断するわけにはいきません。例えば神経性食思不振症ではこのサルコペニアの基準を満たしても、嚥下障害を認めることは少ないです。
そのため、嚥下筋の筋肉量もしくは筋力の低下を評価する何らかの指標が必要です。例えばですが、頭部挙上ができない、舌圧が弱い、首回りが細い、甲状軟骨の形が体表からよく見えるなどが候補になるかと思います。臨床現場では廃用症候群と同様に主観的に判断しているのが現状ですが、要改善です。
②サルコペニアによる摂食・嚥下障害の有病割合がわからない。
診断基準ができれば研究できますが、現状では2番目に多いというのも仮説にしかなりません。
③サルコペニアによる摂食・嚥下障害の原因が何かわからない。
原発性(加齢)と二次性(活動、栄養、疾患)のいずれかを判断する明確な基準がありません。
④サルコペニアによる摂食・嚥下障害に対する適切な治療方法がわからない。
原因の判断基準ができれば研究できますが、現状では低栄養→栄養管理、加齢・廃用→筋トレ、疾患→原疾患の治療+栄養管理+廃用予防のリハといった漠然とした方針しか示すことができません。
⑤サルコペニアによる摂食・嚥下障害の予後が何かわからない。
診断基準ができて一定の治療方法がはっきりしないと、予後を調べる研究もできません。
ということでないない尽くしです。廃用症候群の診断基準作成がなかなか難しいために臨床研究が進みにくいのと似ていると感じます。リハ栄養的にはまずは、サルコペニアによる摂食・嚥下障害という概念を明らかにして、その診断基準を作ることが重要だと考えています。現在行っている研究が一段落したら、着手できればと思っています。
2010年10月27日水曜日
登録:
コメントの投稿 (Atom)
日本歯科大学田村先生が,高齢者の栄養状態と舌筋の厚みとの関連を発表されています.こういったものも診断基準の一つになりうるかもしれません.
返信削除貴重なコメント、どうもありがとうございます。舌筋の厚みはサルコペニアの診断基準になりえると思います。舌筋の筋肉量減少の原因が栄養か廃用か疾患か加齢かは人それぞれかもしれませんが。今後ともよろしくお願いいたします。
返信削除