今日は、編著:佐久川肇、著:植田嘉好子、山本玲菜の「質的研究のための現象学入門 対人支援の「意味」をわかりたい人へ」医学書院を紹介します。
http://www.igaku-shoin.co.jp/bookDetail.do?book=81100
質的研究とは、研究の中で量的研究ではないものです。量的研究とは、概念を定量化して数字で測定、評価、統計処理などすることで、概念間の因果関係を調べる研究です。いわゆる科学・サイエンスと呼ばれるものの大半は量的研究です。
医学の世界でエビデンスと言われるものは基本的には量的研究の結果ですし、科学がこれだけ発展したのも主に量的研究の成果です。質的研究の書籍や研究が増えてきてはいますが、世の中はやはり量的研究が中心です。
ただし、数字で測定できる概念がなければ、量的研究を行うことはできません。そのため、概念・コンセプトを作り出す際には、質的研究を行うことになります。リハ栄養の書籍も高いエビデンスレベルを提示した本ではなく、リハ栄養という概念を作った質的な本といえます。
リハ栄養のエビデンス作り、つまり量的研究の実施はもちろん重要です。実際、量的研究を1つ実施中です。ただ、リハ栄養の概念をさらに深めるためには、量的研究と同時に質的な分析、質的研究の実施も重要と感じています。
質的研究ではデータ収集として、インタビュー、観察、文書、歴史的記録などを用います。観察であっても文章に変換して、文字データで集めます。量的研究ではデータ収集の際に基本的に数字で集めてエクセルに入力しますので、ここは大きな違いになります。
次にデータ分析にはいろいろな方法があります。今回紹介する現象学もその1つですし、それ以外にグラウンデッド・セオリー・アプローチ、エスノグラフィー、ライフストーリー研究、内容分析などいろいろあります。
現象学の基本構造として、相手の発言が「現象」で、発言の意図を知るために相手の立場に立って考え、根拠に基づいて自分の理解の妥当性を確かめようとする作業が「還元」、そしてこちらの意味の受け取り方が「本質観取」、と2ページに記載されています。
「還元」が現象学のキーワードの1つです。「還元」とは収集したデータ(客観的事実)を、客観的意味に書き換えて、そこから実存的意味を取り出す作業です。その際、他の解釈の可能性はないことの妥当性を検証することが必要です。
解釈的現象学と呼ばれる研究もあります。これは妥当性の検証よりも実存的内容自体により重きを置いて、あるがままに記述するような研究だそうです。リハの質的研究の論文にも、解釈的現象学で分析したものがあります。
この文章だけで現象学を理解することは困難ですが、原理はこれだけです。詳細は書籍を実際に読んでいただくしかないのですが、私が読んだ中では現象学に関して一番わかりやすい書籍です。というか他に現象学を理解できる書籍に出会ったことがありませんでした。
また、この書籍では質的研究における方法論の関係として、
実践価値志向(課題解決的)←→存在価値志向(意味論的)
社会集団の特性を明らかにする←→個人のストーリーを明らかにする
の2軸で質的研究をうまく分類しています。
グラウンデッド・セオリー・アプローチ:実践価値志向、社会集団の特性を明らかにする
ナラティブアプローチ(EBMではなくNBM:Narrative Based Medicine):実践価値志向、個人のストーリーを明らかにする
エスノグラフィー:存在価値志向、社会集団の特性を明らかにする
ライフストーリー:存在価値志向、個人のストーリーを明らかにする
と位置付けています。これらはなるほどと感じました。
現象学についてはこの書籍では
1.すべての質的研究法を包括する根本的な認識原理
2.最も意味を志向する研究方法
として位置づけています。私は存在価値志向、個人のストーリーを明らかにするという位置づけでよいのではと感じています。
現象学に関心のある方は、現象学研究会のHPが参考になると思います。
http://www.phenomenology-japan.com/
質的研究の知識がほとんどなくて、質的研究とは何かを知りたい人には、この書籍よりも、①秋田喜代美・能智正博監修、高橋都・会田薫子編「はじめての質的研究法 医療・看護編」東京図書、もしくは②西條剛央著「ライブ講義・質的研究とは何か SCQRMベーシック編」、「ライブ講義・質的研究とは何か SCQRMアドバンス編」新曜社をお勧めします。これらの書籍のほうがより入門書と言えると思います。
①
http://www.tokyo-tosho.co.jp/books/ISBN978-4-489-02009-4.html
②
http://www.shin-yo-sha.co.jp/mokuroku/books/978-4-7885-1071-5.htm
http://www.shin-yo-sha.co.jp/mokuroku/books/978-4-7885-1108-8.htm
ただ、現象学にせよ他の質的研究にせよ、これらの書籍を読んだだけで一人で質的研究を実施することはかなり困難です。質的研究の知識と経験がある方にメンターになってもらい、一緒に研究プロトコール作成、データ収集、データ分析を行うことが望ましいと考えます。
目次
Part A 質的研究のための「現象学入門」
対人支援の「意味」を理解したい人への研究の手引き
序章 現象学的研究方法をわかりやすく学ぶには
第I章 学問の原理とは-ゼロから始めよう
第II章 「支援」から見た科学と現象学
第III章 支援の研究になぜ「実存」の理解が必要か
第IV章 「支援」における現象学的研究の基本
第V章 現象学的研究の実践 現象学的方法をどのように習得するか
第VI章 現象学的研究の具体例
第VII章 支援領域における現象学的研究の課題
【引用・参考文献】
Part B のぞいてみよう!質的研究
現象学の位置づけとその意味
1.質的研究とは何か
2.代表的な質的研究方法の紹介
3.質的研究法の関係図式
【質的研究全般に関する文献】
【Part B-2.代表的な質的研究方法の紹介での引用・参考文献】
0 件のコメント:
コメントを投稿