上記の原著論文がようやく雑誌「家庭医療」に掲載されました。リハ栄養とはあまり関係はないのですが、掲載までの長い道のりを紹介させてください。
若林秀隆、喜瀬守人、岡田唯男:若手家庭医はリハビリテーション領域の臨床能力獲得に関してどのように考えているか:質的研究.家庭医療15(2)4-15,2010
http://jafm.org/journal/pdf/vol15no2/15_2_04.pdf
この質的研究のプロトコールは、2005年度(かなり昔ですね…)の「日本家庭医療学会臨床研究初学者のためのワークショップ」に参加して作成しました。この時点では「質的研究とは何か」ということさえ全く理解できていない初心者でした。とはいえ当時他に質的研究を学べる機会は少なく、書籍を読んでもさっぱり理解できませんでしたので、このような学習機会は実にありがたかったです。
その後(2006年4月~)、臨床研究初学者WSの講師だった岡田唯男先生にメンター、事務局だった喜瀬守人先生に共同研究者をお願いして、まずは日本家庭医療学会倫理委員会に提出する書類(研究計画書など)を作成しました。
この倫理委員会は、倫理面だけでなく研究の内容面に関しても暖かく適切なコメントをくださり、とてもありがたかったです。今は亡き白浜雅司先生のお人柄が倫理委員会に反映されていたのではないかと感じています。
白浜雅司先生のホームページ(臨床倫理の4分割法など臨床倫理の貴重な資料が掲載されています)
http://square.umin.ac.jp/masashi/
次に質的研究であっても、インタビューによるデータ収集のための交通費・宿泊費・会場費(結局会場費はかからなかったのですが、会議室の料金が思いのほか高いことをこのとき知りました)・おやつ代(飲食しながらのほうがよりリラックスできますので、より本音を聞ける可能性が高くなります)、ICレコーダーの購入費用、テープおこし代などお金が必要でしたので、平成18年度日本家庭医療学会の研究助成金を申し込みました。
幸い研究助成金をいただくことができたのですが、別の言い方をすると、この時点でもう研究を途中で辞めることはできなくなりました。研究実施の退路を断つという意味で、研究助成金を申請することは極めて有用な方法です。臨床研究を行っている方にはぜひ研究助成金にトライしてほしいと思います。公益財団法人助成財団センターのHPに、各種団体の助成金情報が掲載されています。助成金応募の手引きも参考になります。
http://www.jfc.or.jp/
その後、日本各地の日本家庭医療学会後期研修施設にお邪魔して、家庭医を対象にフォーカスグループインタビューを行いました。データ収集とデータ分析は本当に不慣れで時間もかかり大変でした。ちなみに量的研究ではデータ収集終了後にデータ分析を行いますが、質的研究では別々ではなく同時に行きつ戻りつしながら行います。岡田先生と喜瀬先生のお力で何とか理論的飽和(これ以上データ収集を行っても新しい概念は出てこないと考えられる状態)に達することができました。
過去に自分が行った臨床研究はすべて量的研究でしたので、数字ではなく文字・文章のままデータを集めて分析するという作業がどんなものなのか、なかなかイメージできませんでした。その中で、戈木クレイグヒル滋子編著「質的研究方法ゼミナール―グラウンデッドセオリーアプローチを学ぶ」医学書院はわかりやすくかなり参考になりました。
http://www.igaku-shoin.co.jp/bookDetail.do?book=62750
そして研究開始から3年以上経過した昨年8月、第24回日本家庭医療学会学術集会・2009年プライマリ・ケア関連学術集会連合学術会議で、学会発表を行うことができました。発表スライドと第4回日本家庭医療学会・学会賞を受賞したときの写真が、以下のHPに掲載されています。
http://www.scribd.com/doc/19730168/2009-
この学会で発表した資料をベースにして、「家庭医療」に投稿しました。研究助成金のルールの1つに、「原則3年以内に日本家庭医療学会の学会誌に原著論文を投稿すること」があり、その締め切りが昨年10月でしたので、ギリギリでしたが何とか投稿できました。幸い1回目の投稿で受理されましたが、私の過去の経験では査読をクリアすることはかなり大変ですし、リジェクトされたことも数回あります。
臨床研究初学者WSから論文掲載まで実に4年以上かかってします。私の努力不足が大きな要因ですが、それでも研究プロトコール作成→倫理委員会申請→研究助成金申請→データ収集とデータ分析→学会発表→論文執筆の順番にきちんと進めていけば、論文掲載までに2-3年はかかると感じています。
論文という形になったことはすごく嬉しいですが、同時に質的研究について学習して、ものの見方、考え方が広がったことが自分の財産だと考えています。リハ栄養という概念を作れたのも、質的研究を学習したからです。量的研究よりも質的研究のほうが自分に向いていると感じるようになりました。
多くの方に感謝していますが、特に岡田先生と喜瀬先生には大変お世話になり感謝しています。お二人の存在とサポートがなければ、絶対に論文にすることはできませんでした。本当にありがとうございました。
私もまだ研究初学者ではありますが、より初学者の方たちの臨床研究をサポートできればと考えています。体系的に研究方法を学習するために大学院に進学される方を除くと、サポートなしに質の高い臨床研究を実施することはかなり困難です。それが間接的に恩返しになるのではないかと思い、ときどき臨床研究のことをここに書いています。
2010年3月29日月曜日
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