侵襲とは生体の内部環境の恒常性を乱す刺激で、手術、外傷、骨折、感染症、熱傷、発熱などが含まれます。1日エネルギー消費量を計算するときの、ストレス係数が侵襲の程度となります。
侵襲には傷害期、異化期、同化期があります。検査値で判断するには、窒素バランスの推移が確実です。ただ、侵襲の治療がうまくいっていないためにCRPが高値の時期、もしくはCRPが増加傾向にある時期は、異化期の可能性が高いといえます。一方、CRPが低値もしくは明らかに減少している時期は、同化期の可能性が高いです。
異化期では主に筋蛋白の異化(分解)で、侵襲に対する治癒反応へのエネルギーが供給されます。つまり、どんなに体外から体内へ栄養を投与しても、筋肉の分解を0にすることはできません。ただ、不適切な栄養管理で飢餓にしてしまうと、より筋肉の分解が進みますので、飢餓にはならないような維持的な栄養管理は必要です。
リハに関しても目標は機能改善ではなく、機能維持です。異化期にはレジスタンストレーニング(筋トレ)は基本的に行いません。
一方、同化期では筋肉合成(同化)が可能となります。同化に必要な栄養は、筋肉を構築するために必要な蛋白質、脂質(細胞膜の構築に必要)、エネルギー(同化には原材料だけでなくエネルギーが必要)です。
同化期では1日エネルギー消費量に見合ったエネルギーしか投与しなければ、筋肉量を維持できても増やすことは困難です。そのため、機能改善を目標とした積極的な栄養管理が必要です。エネルギー蓄積量として1日200~500kcalを消費量に加えて投与することで、筋肉量増加に必要な栄養を満たすことができます。
リハに関しては機能改善が目標ですので、もちろんレジスタンストレーニングが必須です。栄養管理だけで筋肉量を増やすことはできません。
まとめると侵襲下では疾患の治療、炎症のコントロールがうまくいっていないときは、機能改善を見込めないため、維持的なリハ栄養管理を行います。治療が奏功し炎症反応が改善したら、積極的なリハ栄養管理を行います。
リハでは目標を機能維持の時期と機能改善の時期に明確に分けて考えることは、普通に行われます。例えばALS(筋萎縮性側索硬化症)のリハでは、廃用の合併がなければ筋力増強は期待できないため、維持的に行うことが多いです。救命センターや集中治療室でのリハも、人工呼吸器の離脱や無気肺の改善など呼吸リハの意味では呼吸機能改善を目指しますが、筋肉量を増やすことは目指しません。二次的合併症を予防するための維持的リハが主です。
栄養管理でも機能維持の時期と機能改善の時期に明確に分けて考えることが必要です。時期によって栄養管理の内容も多少異なってきますので、飢餓、侵襲、(前)悪液質の有無と程度を評価したうえで、栄養管理の目標を栄養維持か栄養改善か明確にすることが望ましいです。
飢餓、侵襲、(前)悪液質では、リハと栄養管理の目標が解離することは稀です。リハ栄養管理として、目標を栄養維持か栄養改善か明確にして、状態に見合った適切なリハ栄養管理を行うことが、筋力、ADL、QOLの悪化予防、維持、向上に有効だと考えます。
0 件のコメント:
コメントを投稿