アメリカ栄養士会とASPEN(アメリカ静脈経腸栄養学会)の成人低栄養を判断するためのコンセンサス論文を紹介します。これはASPENのホームページから直接PDFで全文ダウンロードできるくらい、重要な論文です。
Jane V. White, Peggi Guenter, Gordon Jensen, Ainsley Malone, Marsha Schofield, Academy Malnutrition Work Group, A.S.P.E.N. Malnutrition Task Force and and the A.S.P.E.N. Board of Directors: Consensus Statement: Academy of Nutrition and Dietetics and American Society for Parenteral and Enteral Nutrition : Characteristics Recommended for the Identification and Documentation of Adult Malnutrition (Undernutrition). JPEN J Parenter Enteral Nutr Volume 36(3): 275-283, 2012
ASPENのホームページ
http://pen.sagepub.com/
この論文のPDF
http://pen.sagepub.com/content/36/3/275.full.pdf
この論文の前に、図のような原因による低栄養の分類が提唱されていました。そして、今回の論文では、成人低栄養について、以下の3つのタイプに分類しています。
①Malnutrition in the Context of Acute Illness or Injury (急性疾患・損傷)
②Malnutrition in the Context of Chronic Illness (慢性疾患)
③Malnutrition in the Context of Social or Environmental Circumstances (社会生活環境)
慢性の定義として疾患が3カ月以上継続する場合としています。おそらく①侵襲、②悪液質、③飢餓と考えて、大きな問題はないと思います。
次に以下の6項目のうち2項目以上に該当する場合を、低栄養の診断として推奨しています。その際、これらの程度によって、低栄養の程度を重度でない(中等度)と重度の2つに分類しています。
Insufficient energy intake (エネルギー摂取不十分)
Weight loss (体重減少)
Loss of subcutaneous fat (皮下脂肪減少)
Loss of muscle mass (筋肉量減少)
Localized or generalized fluid accumulation that may sometimes mask weight loss (浮腫)
Diminished functional status as measured by handgrip strength (握力測定による機能低下)
Malnutrition in the Context of Acute Illness or Injuryの場合、以下のようになります。
エネルギー摂取不十分
中等度:75%未満の摂取量が1週間以上、重度:50%以下の摂取量が5日間以上
体重減少
中等度:1週間で1-2%、1カ月で5%、3カ月で7.5%、重度:中等度を超える場合
皮下脂肪減少
中等度:軽度減少 重度:中等度減少
筋肉量減少
中等度:軽度減少 重度:中等度減少
浮腫
中等度:軽度浮腫 重度:中等度~重度浮腫
握力
中等度:適用なし 重度:ある程度低下
次にMalnutrition in the Context of Chronic Illnessの場合、以下のようになります。
エネルギー摂取不十分
中等度:75%未満の摂取量が1ヵ月以上、重度:75%以下の摂取量が1ヵ月以上
体重減少
中等度:1ヵ月で5%、3カ月で7.5%、6か月で10%、1年で20%、重度:中等度を超える場合
皮下脂肪減少
中等度:軽度減少 重度:重度減少
筋肉量減少
中等度:軽度減少 重度:重度減少
浮腫
中等度:軽度浮腫 重度:重度浮腫
握力
中等度:適用なし 重度:ある程度低下
最後にMalnutrition in the Context of Social or Environmental Circumstancesの場合、以下のようになります。
エネルギー摂取不十分
中等度:75%未満の摂取量が3ヵ月以上、重度:50%未満の摂取量が1ヵ月以上
体重減少
中等度:1ヵ月で5%、3カ月で7.5%、6か月で10%、1年で20%、重度:中等度を超える場合
皮下脂肪減少
中等度:軽度減少 重度:重度減少
筋肉量減少
中等度:軽度減少 重度:重度減少
浮腫
中等度:軽度浮腫 重度:重度浮腫
握力
中等度:適用なし 重度:ある程度低下
慢性疾患による低栄養と、社会生活環境による低栄養では、エネルギー摂取不十分の項目以外、すべて同じ基準です。つまり、慢性炎症を生じる可能性のある慢性疾患の有無で、どちらか(もしくは両方か)を判定することになります。また、3つとも合併する可能性もあります。
アルブミンやプレアルブミンに関しては、栄養指標というより炎症反応の影響を受ける指標であるため、今回の6項目に含まれていません。また、炎症マーカーとして特定の検査項目の使用は推奨されていません。ただ、臨床的には白血球数やCRPで判断することになるでしょう。
アメリカでは今後、この基準で成人低栄養の有無、原因、程度を判断していくことになります。アメリカの栄養界の話ですのでそのまま日本に導入すべきかどうかは一概に言えませんが、3つの病態別の診断や、浮腫や握力を含んだ診断基準というのは評価できると思います。
リハ栄養としては、3つの病態のどれに該当するかを考えて、それに見合った栄養管理とリハを行っていくというスタンスに変わりはありません。CRP0.3~0.5mg/dl以上が3カ月以上続けば慢性疾患、短期のCRP高値を認めれば急性疾患・損傷、CRP陰性であれば社会生活環境が目安です。
ただ、複数の病態を合併する場合にはCRPのみで判定することはできませんので、やはり併存疾患や炎症の原因疾患を考慮することが必要です。そして、握力は栄養管理・NSTでルーチンに評価すべき項目だと考えます。
Abstract
The Academy of Nutrition and Dietetics (Academy) and the American Society for Parenteral and Enteral Nutrition (A.S.P.E.N.) recommend that a standardized set of diagnostic characteristics be used to identify and document adult malnutrition in routine clinical practice. An etiologically based diagnostic nomenclature that incorporates a current understanding of the role of the inflammatory response on malnutrition’s incidence, progression, and resolution is proposed. Universal use of a single set of diagnostic characteristics will facilitate malnutrition’s recognition, contribute to more valid estimates of its prevalence and incidence, guide interventions, and influence expected outcomes. This standardized approach will also help to more accurately predict the human and financial burdens and costs associated with malnutrition’s prevention and treatment and further ensure the provision of high-quality, cost-effective nutrition care. (JPEN J Parenter Enteral Nutr. 2012;36:275-283)