2011年2月6日日曜日

誰も教えてくれなかった診断学

野口善令、福原俊一著:誰も教えてくれなかった診断学-患者の言葉から診断仮説をどう作るか、医学書院を紹介します。下記HPで立ち読みができます。また、上野文昭先生の書評もぜひ下見ていただきたいと思います。

http://www.igaku-shoin.co.jp/bookDetail.do?book=18870

この書籍は診断に関わるすべての医師の必読書です。必読書すぎて今まで紹介していませんでしたが、研修医でこの書籍や診断仮説のことを知らない先生がいることに驚きましたので、紹介することにしました。ちなみに野口先生と福原先生は、臨床研究の私の師匠です(一方的に思いこんでいるだけかもしれませんが…)。

診断というと絨毯爆撃的にたくさん検査をして、そこで引っ掛かったものがあればさらに検査をするという方法もあります。これは昭和時代の診断方法だと私は思いますが、このような方法を用いている医師もまだいるようです。現代では、臨床疫学を取り入れた仮説演繹法で診断します。

仮説演繹法について、序文(上記HP)から引用して紹介いたします。

 筆者らは,臨床医に最も重要な素養は思考力・判断力であると考える.そこで,この思考力・判断力の座標軸を構成する「3つの軸」を提唱する.

1)「頻度・確率の軸」
(1) 患者から得られた限られた情報(主に見る,聴く,触る,感じるなどの五感)から,患者の問題は何か,について絞り込まれた仮説を考える.
(2) 一人の患者の背後にある集団を想像し,病気を有している確率を推定する.
(3) 検査の選択や結果の解釈に臨床疫学を活用する.
 以上は現代の臨床医に求められる最も基本的な「軸」である.

2)「時間の軸」
 患者は生きものであり,刻々と変化していく.前日の検査値のみに頼るのではなく,今,目の前にいる患者をよく観察し,次に何が起こるかを予測しなければならない.また検査や治療には「適時」があり,そのタイミングを逃せば価値は半減し,時に有害でさえある.

3)「アウトカムの軸」
 「頻度・確率の軸」だけでは不十分である.非常に稀でも診断を見逃したり,治療のタイミングを逃すと重大かつ非可逆的なアウトカムをきたす疾患や,逆に治療によってよりよいアウトカムをもたらす疾患を常に頭の片隅に置いておくことも重要である.

これら3つの軸をもとに、医療面接(問診)・身体診察から、もっともありそうな疾患を上から順に3つ程度考えます。この時点で検査をするまでもなく診断が確定的な場合には治療に入ります。診断が確定的でない場合には、最もありそうな疾患の検査後確率を高める(もしくは低くする)ような検査を行います。最もありそうな疾患ではなかった場合には、次にありそうな疾患に関する検査を行います。これが診断学の基本です。

診断学というと医師の仕事と考えがちですが、仮説演繹法は医師以外の医療人にも必要です。例えばNSTでは目の前の患者に栄養障害を認める場合、栄養障害の原因は何かを考えることが必要です。その際、絨毯爆撃的に栄養に関する検査をたくさん行っても意味は少ないです。3つの軸で仮説を持って、最もありそうな栄養障害の原因から検査します。

栄養ケアマネジメントのマネジメントサイクルにしても仮説演繹法です。NSTではその時点で最も適当な栄養ケアプランを立案しますが、これはあくまで仮説です。数日後から1-2週間後に栄養モニタリングを行い、仮説が正しかったかどうかの検証が必要です。仮説が正しければ現在の栄養ケアプランを継続し、仮説が間違っていれば新たな栄養ケアプランを立案します。

このようにNSTに関わる医療人にとっても有益な書籍です。優秀な医療人とそうでない医療人の違いは、仮説思考ができるかどうかです。この書籍の序文には「上記の3つの軸について全く考えず,意識することもなしに診療する医師をわれわれは「藪医者」と定義することにした」とありますが全く同感です。医師以外の医療人にもご一読をお勧めします。

目次

はじめに
プロローグ

第1章 患者の言葉を問題解決に活用できる「生きた情報」に変換する
第2章 Clinical Problemからカードを引く
第3章 診断の3つの軸―カードの中身の作り方
第4章 カードから診断へ
第5章 異なる診断推論アプローチ

エピローグ
索引

付録
 01 カードの在処
 02 検査前確率や検査特性についての参考資料
 03 臨床疫学の基礎知識

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