サルコペニアと六君子湯に関する記事が、ホスピタルシティのHPに掲載されています。
http://hospitalcity.jp/page.asp?idx=10002056&post_idx_sel=10040730
引用ですが、「例えば、最近の幾つかの研究で、六君子湯が抗がん剤(シスプラチン)によるグレリンの胃からの分泌低下を阻止し、さらに脳内におけるグレリン受容体を増加させることによって食欲を高めることが、ラットを使った実験で示されています。」そうです。
グレリンとサルコペニアに関しては以前のブログにも書きましたが、グレリンに関しては有力な治療薬候補だと感じています。ただ、上記引用ではラットの話なので人に当てはまるかどうかわかりませんし、サルコペニアに当てはまるかどうかもわかりません。
六君子湯の効能・効果は、「体力中等度以下で、胃腸が弱く、食欲がなく、みぞおちがつかえ、疲れやすく、貧血性で手足が冷えやすいものの次の諸症:胃炎、胃腸虚弱、胃下垂、消化不良、食欲不振、胃痛、嘔吐」だそうです。
サルコペニアに対する治療として、レジスタンストレーニング、適切な栄養管理、BCAA、ビタミンD、有酸素運動、などがありますが、これらをすべて行ってもなお食欲不振が問題でサルコペニアの治療に難渋している場合には、六君子湯も選択肢の1つになるかと思います。ただ、エビデンスはほとんどありませんので、優先順位は低いですし、十分な説明と同意は欠かせません。
2010年11月11日木曜日
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ニセ漢方医の守屋章成です.
返信削除六君子湯に限らず,特定の漢方薬を西洋医学的な視点のみでルーチン投与することは必然的に誤治症例を増やします.六君子湯なら「食欲不振」だけで投与すれば,偽性アルドステロン症は一定の確率で発生するでしょう.
ただそれでも尚,六君子湯はかなり応用範囲の広い薬のようです.
血圧と血清Kと浮腫の頻繁なモニタリングを行う前提なら,「サルコペニアに伴う食欲不振」に最初から(難渋してからではなく)投与を検討しても良いかもしれません.
直観的には「サルコペニアに伴う食欲不振」自体が六君子湯証とかなりオーバーラップする状態のように感じます.
グレリンをきっかけに近年六君子湯が急に有名になりましたが,「胃腸薬」という偏狭な知られ方になってしまいました.
漢方的には「脾虚」を改善する薬で,言うなれば食欲不振と低栄養の悪循環を元から断ち切ってサルベージしてくれるような印象があります.
また,「自罰的で了解困難な心気傾向」にも劇的に効くことがあります.
(「去年に比べて20kg痩せた」と無表情に主張したまま問題解決の糸口すらつかめず2ヶ月以上経過した患者さんに六君子湯を処方したら,1週間後に別人のような晴れやかな顔つきで受付に漢方薬の礼を言い残していった,ということもありました)
蛇足ながら,エキス剤の六君子湯にはふけい剤として乳糖が添加されています.六君子湯証の一部の人は乳糖不耐症も持っていますので,六君子湯によって食欲は改善したが軟便・下痢や下腹部膨満感を訴える,といったケースがあります.
この場合は乳糖でふけいしていないメーカーのエキス剤を選択すると良いようです.
散漫なコメントで恐縮です(※消えてしまった先のコメントをうまく再現できませんでした).
守屋先生、貴重なコメントをくださり、どうもありがとうございます。
返信削除サルコペニアに伴う食欲不振に最初から投与を検討しても良いかもという点に、最も感銘を受けました。このような発想を持っていませんでしたのでとても参考になりました。今後、リハNSTで選択肢の1つとして提案するようにいたします。
甘草を含んでいますので当然、偽性アルドステロン症には要注意ですね。昔、これで痛い目にあったことがあります…。乳糖不耐症も要注意ですね。
どこかで一度、漢方をきちんと学習しないと…と感じました。今後ともよろしくお願いいたします。どうもありがとうございました。
若林先生
返信削除守屋です.
ご丁寧にレスをいただきありがとうございます.
リハビリ&栄養の領域では漢方や鍼灸がお役に立てる場面が多いかもしれません.
筋の過緊張,慢性疼痛,食欲不振,るいそう,意欲減退,などなど,
リハ&栄養で頻繁に出会いながらも西洋医学的にはとらえどころがなくストレートな治療が困難な病態が多いのではないかと想像します.
漢方や鍼灸はそれらをストレートに治癒or改善させるポテンシャルを有しています.
六君子湯もその一つの解かもしれません.
1例報告ですが,在宅の高齢者で脊髄炎後に両下肢の過緊張が慢性化して在宅リハがうまく進まないという方がおられました.
芍薬甘草湯を投与したところ,過緊張が緩和されてリハがスムーズに行えるようになり,下肢の疼痛やしびれが軽減した,という経験があります.
(残念ながら偽性アルドステロン症を起こして減量→中止せざるを得なかったのですが.もともとSIADHを起こしやすい方で,その原因追及も積極的には行わない方針でいたので,電解質バランスが障害されやすい要因があったのかもしれません.)
リハ/栄養の領域こそ,漢方・鍼灸を有効に活用していただけたらと思うところです.
今後数年の自分の目標は「家庭医療業界における漢方(と鍼灸)と予防接種のエバンジェリスト」ですので,何かコラボできる機会がありましたら是非ご指導下さい.
守屋先生、ご丁寧にどうもありがとうございます。芍薬甘草湯に関しては過緊張の治療の第一選択として使用することがあります。うまくいったこととうまくいかなかったことがありますが…。
返信削除確かにリハ栄養の領域は漢方・鍼灸を有効に活用できる場面が少なくないと思います。”リハ薬剤”や”リハ漢方”という領域・言葉は現時点ではほとんどないようですが、ニーズはあると感じています。コラボできる機会がありましたら、こちらこそ何卒よろしくお願い申し上げます。
ちなみに来年8月の第23回学生・研修医のための家庭医療学夏期セミナーには、久しぶりに参加させていただく予定です。