2010年8月14日土曜日

「医師アタマ」との付き合い方

今日は尾藤誠司著、「医師アタマ」との付き合い方-患者と医者はわかりあえるか、中公新書ラクレを紹介します。

http://www.chuko.co.jp/laclef/2010/04/150344.html

尾藤先生には個人的に「プライマリ・ケア医のための臨床研究デザイン塾」などで大変お世話になっています。臨床研究デザイン塾に参加していなければ今の自分はなかったので本当に恩人です。だから紹介するというところも少しあります(笑)。

医者と患者の話がすれ違う原因を医師特有の思考回路、「医師アタマ」にあるという仮説を立てて、検証している書籍です。まず、「医師アタマ」というコンセプトとネーミングが卓越しています。

「医師の思考回路、意思決定などのプロセスがおどろくほど一様」ということに私は驚いてしまいました。「医師自身は他の医師と自分の思考回路が同様だとは感じておらず、個々に違うと思っているようです」とあるように、まったくそう思っていました。

リハ医自体が少ないですし、さらにリハよりも栄養に傾いている医者なんてあまりいないので、他の医師とは思考回路も違うと感じていました…。キャリアは違っても思考回路は同じだと知っていい振り返りになりました。

確かに高校(浪人)時代の大学受験、大学医学部での教育、研修医といった中で、医療人に特殊な思考回路が刷り込まれていても全く不思議はありません。自分はまだマシなほうと思っていること自体が危険ですね。

患者のアタマのイメージをモネの睡蓮の絵で、医師のアタマのイメージをモンドリアンの硬く太い直線で構成された絵で対照的に表現して、「医師のモンドリアン回路」という言葉を使っているのは、実に素晴らしいです。相当質的研究に熟練していなければ、こんな芸当はできないと思います。

最後に新しい社会における新しい医師像として、「しなやかな医師」と表現しています。これは医師だけでなく他の医療人にも当てはまりますので、「しなやかな医療人」と言えると思います。ただ、他の医療職に比べて医師の壁や鎧はより強固なので、医師こそしなやかでなければいけませんね。最近、頑固になりつつある気がしていたので反省しています。

ということで一般人向けに書かれた書籍ですが、医療人にもおすすめします。

目次
第1章 医師アタマの基本構造
第2章 診療室の中で何が起こっているのか
第3章 患者が知らない医師の常識
第4章 医師アタマの価値観
第5章 医師アタマとの付き合い方
第6章 患者として、市民として

さらに学習したい医療人には、尾藤誠司編著、医師アタマ-医師と患者はなぜすれ違うのか?、医学書院もお勧めします。こちらのほうがやや難しいですが、いろいろと考えさせてくれる書籍です。

http://www.igaku-shoin.co.jp/bookDetail.do?book=25958

目次
第1章 医師の頭の中は「イシアタマ」である
 今こそ医師アタマの考察と反省を
 異文化コミュニケーションとしての患者-医師関係
 医師アタマを変えてしまえ!
第2章 医師アタマにとっての「病気」と「健康」
 「健康」とは何か?
 病人と正常人の境目
 コミュニケーションの道具としての病名
 「治る」と「治す」―かぜの抗菌薬問題
第3章 医師アタマが描くプロセス
 エビデンスに基づいたあいまいな判断―医学的根拠と医師の立場
 引き算で得る安心―鑑別と除外診断のプロセス
 医療における時間の感覚
 悪くなったのは誰のせい?―因果の迷路
第4章 医師アタマにとって大切なものとそうでないもの
 王様は病態生理
 「西洋医学でないものはうさんくさい」はどんな根拠に基づくのか?
 アウトカムと人生の折り合い
 医療における「よいこと」について
 医師は誰のことを考えて診療しているのか?―医師にとってのお金
第5章 医師アタマと患者
 医師の判断と患者の決断―Shared decision makingにおける諸問題
 診療ガイドラインは何のため?
 医師と患者は友達であるべきか?
 傷害としての医療
第6章 医師アタマの医療はどこに向かうのか?
 患者にとっての「専門家」と医師のなかでの「専門家」
 祈りに効果はあるのか?―医療と宗教
 医師は「偉い人」であるべきか?
 医療は本当に人の役に立っているのか?
 愛のシステム―「患者中心の医療」から「患者とともに考える医療」へ

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