2011年3月20日日曜日

EPCRCのがん悪液質ガイドライン


先月、EPCRCの正式な悪液質ガイドラインが出されました。愛生会山科病院の荒金英樹先生に教えていただきました。どうもありがとうございます。

Clinical practice guidelines on cancer cachexia in advanced cancer patients with a focus on refractory cachexia

下記のHPから全文PDFで見ることができます。

http://www.epcrc.org/guidelines.php?p=cachexia

タイトルにもあるように今回は、不応性悪液質(refractory cachexia)に焦点をあてています。今まで前悪液質と悪液質の診断基準に関する論文はありましたが、不応性悪液質の診断基準をある程度示したガイドラインは初めてです。なおこのガイドラインはがんによる悪液質が対象ですが、その他の疾患(慢性感染症、膠原病、慢性臓器不全:心臓、呼吸、肝臓、腎臓)による悪液質にもかなりあてはまると考えています。

悪液質とリハはもともと緩和リハで親和性がありますが、リハ栄養・サルコペニアの視点で考えるとさらに親和性があります。リハ、栄養、緩和医療がますます切り離せなくなってきました。リハ栄養的にはかなり重要なガイドラインですので、興味のある方はぜひご一読下さい。

以下、ポイントのみいくつか紹介します。

・悪液質の定義
Cancer cachexia is a multi-factorial syndrome defined by an ongoing loss of skeletal muscle mass (with or without loss of fat mass) that cannot be fully reversed by conventional nutritional support and leads to progressive functional impairment. The pathophysiology is characterized by a negative protein and energy balance driven by a variable combination of reduced food intake and abnormal metabolism.

これは先月のLancet Oncologyに掲載された論文と同じです。

・悪液質のステージ
前悪液質pre-cachexia、悪液質cachexia、不応性悪液質refractory cachexiaの3段階に分類。

これも先月のLancet Oncologyに掲載された論文と同じですが図に示します。悪液質のステージ分類はとても大事ですが、pre-cachexiaとrefractory cachexiaの日本語訳で定まったものはまだありません。私のこの訳で大きな間違いはないと思いますが、日本静脈経腸栄養学会や日本緩和医療学会のガイドラインで、早く悪液質のステージ分類を採用してほしいです。

・不応性悪液質の特徴と診断基準
不応性悪液質の特徴はperformance status(PS)が3(限られた自分の身の回りのことしかできない。日中の50%以上をベッドか椅子で過ごす)もしくは4(全く動けない。自分の身の回りのことは全くできない。完全にベットか椅子で過ごす。)で、生命予後が3カ月未満である。

Refractory cachexia is characterised by a low performance status (WHO 3 or 4) and life
expectancy less than 3 months.

不応性悪液質診断基準も図に示しましたが、以下の通りです。

Fulfil critera for cachexia definition:悪液質の診断基準に該当
Prognosis < 3 months:生命予後が3カ月未満
Performance status WHO 3 or 4:PSが3か4
Unresponsive to anti-cancer therapy:抗がん治療の効果がない
Ongoing catabolism at increasing rate:異化が進んでいる
Unsuitable for artificial nutritional support:人工的栄養サポートの適応がない

・悪液質に対する運動療法
以下のような推奨がされています。身体機能の維持に有効であり、個別化した介入をしなければいけません。ただし、どの程度の運動療法(有酸素運動、レジスタンストレーニングとも)が悪液質と不応性悪液質に有効かは不明です。

Recommendation
In cancer patients, physical training and other physical treatment options are beneficial as a preventive procedure to maintain functional status. The activities and training interventions have to be individualized (overall level of recommendation: strong positive; mean consensus 7.92). However, most research has been done in patients treated with curative intent, and it is not clear to what extent physical training is appropriate in patients with advanced cancer/refractory cachexia.

運動療法の抗炎症作用を期待したいところですが、エビデンスは少ないのが現状です。個人的見解ですが、不応性悪液質の時期はレジスタンストレーニングは禁忌で、機能維持目的の訓練のみが適応と考えます。一方、前悪液質と悪液質の時期は十分なエネルギー摂取量が確保されていれば、低(~中)負荷の有酸素運動とレジスタンストレーニングの適応はあると考えます。

0 件のコメント:

コメントを投稿