2010年12月2日木曜日

Paralytic condition における呼吸リハ

先月の第5回リハビリテーション科専門医会学術集会では、「Paralytic condition における呼吸リハビリテーション」に関する教育講演がありました。抄録は下記のHPで入手できます。

http://www-user.yokohama-cu.ac.jp/~rehasen5/shouroku.pdf

以下、上記HPの38ページからの引用です。

1. Paralytic condition とは

 肺障害は病態より大きく閉塞性と拘束性に分けられる。Paralytic condition とは拘束性障害のうち、原因が一時的には肺・胸郭にあるのではなく、呼吸運動にかかわる神経系から筋に至る経路にあるものである。すなわち、脳の呼吸中枢から始まり、脊髄、末梢神経、神経筋接合部、筋がその病変の主座となりうる。また、呼吸筋力低下が主要な問題である状態と考えれば、加齢、廃用、鎮静などもこの範疇に含まれると考えられる。

2. Obstructive condition とのちがい
 閉塞性障害が主であるCOPD における呼吸リハビリテーション(以下、リハ)の目的の大きな柱はADL の維持、改善であり、運動療法をいかに行うかが重要である。これに対して呼吸筋力低下をきたす状態では、しばしば重度の四肢の運動障害を合併する。この場合、呼吸運動による生命の維持がまず優先され、ADL を含めて筋力が不十分な場合に外部に動力を求めることとなる。

3. Paralytic condition における呼吸リハ
 Paralytic condition における呼吸リハは非侵襲的人工換気(NPPV)、特に陽圧換気の導入、普及により発展し、患者のQOL も向上した。その最もよいモデルはデュシェンヌ型筋ジストロフィーとされている。その理由は、進行性であるが急激ではないこと、知的面、咽喉頭筋機能が比較的保たれることなどである。これらの条件が欠けるほど、そのケアおよびリハは難しくなってくる。たとえば、筋委縮性側索硬化症では進行が急激であり、早期より球麻痺を生じることよりその対応はより難しくなる。また高位頸髄損傷では、慢性期の管理は筋ジストロフィーに比べてそれほど難しくはないが、急性期にはNPPV 導入は必ずしも容易でなくまた普及も進んでいない現状である。リハの目的は、胸郭・肺のコンプライアンスの維持、気道の清浄化、換気の正常化であるが、それには機器の使用を含めたさまざまな技術が必要である。

4. 神経筋疾患・脊髄損傷の呼吸リハガイドライン策定に向けて
 これらの疾患は一般の医療現場では希少な疾患であり、NPPV をはじめ一連の呼吸リハの普及が進まない現状がある。リハ学会では、麻痺性疾患の呼吸リハをどのように行うべきか一定の線を示し啓蒙するためガイドラインを作成する方針とし、策定委員会が設置された。本委員会は発足して間もないが、有用なガイドライン策定をめざして活動していく所存である。

1に呼吸筋力低下が主要な問題である状態と考えれば、加齢、廃用、鎮静などもParalytic conditionに含まれるとあります。広義のサルコペニア(加齢、活動、疾患、栄養)で呼吸筋の筋肉量と筋力が減少すれば当然、Paralytic conditionとなります。

Paralytic conditionのほうが神経系から筋肉のいずれかの障害で生じるという点で、呼吸筋のサルコペニアより広い概念になります。ただ、広義の呼吸筋のサルコペニアを合併している患者が多いのではと思います。

人工呼吸器からなかなか離脱できない理由として、肺・胸郭の問題だけではなく、広義の呼吸筋のサルコペニアもあげられます。この場合、呼吸リハを行うことになりますが、レジスタンストレーニングを行ってよいかどうかは、現在の全身・栄養状態や栄養管理次第となります。また、適切な栄養管理の併用は欠かせません。

サルコペニアというと、四肢体幹の筋肉量と筋力の低下をイメージしがちですが、口腔筋・嚥下筋、呼吸筋、心筋など全身の筋肉量と筋力が低下しますので、これらを考慮したリハ栄養が重要といえます。Paralytic conditionも「栄養ケアなくしてリハなし」「リハなくして栄養ケアなし」かもしれません。

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